第十一話 〜空を駆ける【暁 Ver】
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スナに追いついた。その時、戦技教官室に響き渡る耳障りな警告音と、見る者の不安を煽るかのように明滅を繰り返す『ALERT』の文字。
動揺していたあたし達の目の前に、スクリーンが展開される。アスナを伴い聖王教会へ赴いていた八神部隊長だった。彼女はあたし達を視界に納めると、安心させるように微笑み……表情を変えた。
「手短に説明するで? レリックと思われる貨物を積んだリニアが、ガジェットの襲撃を受けとる。場所はエイリの山岳丘陵地区。対象は山岳リニアレールで移動中。ガジェットは三十体前後。制御系統を奪われリニアは暴走中や」
八神部隊長から告げられた状況は、少々厄介だ。
「高町隊長及びフェイト隊長は現場指揮。私は隊舎に戻って全体指揮を執る。リインは私のサポート。桐生三等陸士は既に現場へ先行しとる。シフトは『A-3』。詳細なデータはヘリの中で各自確認する事。以上や」
八神部隊長はそこまで指示を出すともう一度あたし達を視界に納めながら、初めての命令を告げた。
「機動六課フォワード部隊……『SCRAMBLE』」
さて、ミッドチルダでの初出動だ。新デバイスを実戦で試さなきゃならないのは痛い。
「どうしたの、キャロ」
「あ、あの、アスナさんが先行してるって……」
なるほど。アスナが現場へ先行しているとは言っても、こっちはヘリだ。上手く合流できるか心配しているのだろう。
「大丈夫よ、キャロ」
──── あの娘は空を駆けることに関しては誰にも負けないのだから。
風が身を切る。小さくなった街を眼下に見ながらアスナは、空を駆けていた。
『アスナ、何も考えず走れば良い。到達ポイントへの指示は私がする』
「……どっち?」
『二時の方向へ、そのまま真っ直ぐだ』
更にスピードを上げる。世界から音が消え失せ、ゴーグルから見える視界が、瞬く間に狭くなっていく。アスナだけがいる世界。空を飛べる人間が当たり前に見ている世界を、翼のないアスナは手に入れた。昔はこの感覚が好きだったが、今は少しだけ寂しく感じる。ふと、いつも怒っているような顔をしている彼女と脳天気そうに笑っている彼女の顔が過ぎる。
魔力が身に滾るのを感じながら更にスピードを上げる。さぁ、急ごう。アスナは小さな彼女が心配だった。時折ではあるが、とてつもなく不安そうな表情を見せるのが、気になっていた。
「……急ぐ」
更にスピードを上げる。魔力を与えられた細胞が、もっとよこせと言わんばかりに雄叫びを上げた。ひたすらに。ただ、ひたすらに空を駆ける。桐生アスナ。初めての『敵』と接触まで─── あと僅かである。
〜空を駆ける 了
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