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センゴク恋姫記
第3幕 夏侯元譲
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曹操の一喝。
 だが、二人の忠臣はその主に抗議する。
 特に夏侯惇は、今にも縄を食い千切ろうとしていた。

 自身の真名だけでなく、敬愛する主の真名すら呼び捨てた男。
 百度殺しても殺し足りない程の怒り。

 だが、それも曹操の一言で霧散する。

「真名なら私が許したわ。ゴンベエが私の真名を呼ぶのは当然よ」
「「 なっ!? 」」

 二人は我が目を疑うように驚愕する。
 だが、それも当然だった。

 曹操が真名を許すということは、この男を認めたということに等しいのだから。

「それとね、春蘭。この男は大陸の外から来たの。真名というモノを知らなかったのよ」
「知らなかった…………ですが!」
「ええ、そうね。知らなかったでは済まされないわね。でも、この男――ゴンベエに貴方の名を尋ねろといったのは私。ゴンベエが真名を知らないであろうこともわかっていたはずなのに、ね。だから……」

 そう言って、曹操はミノムシ状態の夏侯惇に跪き、頭を下げる。
 その姿に、夏侯惇は目を見開き、夏侯淵は絶句した。

「ごめんなさい、春蘭……私が貴方の尊厳を傷つけたも同じよ。本当に……ごめんなさい」
「か、かり、かりん、さ……」

 夏侯惇は上擦り、夏侯淵は声も出ない。
 それもそのはずだろう。

 中国において、『謝る』ということは殆ど無い。
 謝罪をすることは、自らの否定を意味する。
 日本では謝ることが美徳という文化であるが、大陸は違う。
 謝る、という行為は、自らのみでなく、家族や社会的立場、コミュニティ全てに影響するとんでもない行為なのだ。
 だからめったに謝ることはない。

 ましてや、曹操が謝る相手は自身の部下なのである。
 自ら部下に対して膝を折るということは、自らの首を差し出す行為と同義である。
 つまり、ここで夏侯惇に殺されても文句は言わない。
 そう、曹操は夏侯惇に示しているのである。

 二人が絶句し、曹操が頭を下げて100は数えた頃。
 ようやく口を開く者が居た。

 だれであろう……騒動の張本人だった。

「華琳、よ。上に立つ者がそんなに気安く頭を下げるもんでもなかろう。ワシが悪いのじゃから、ワシが謝るわい」

 そう言ってミノムシ状態の夏侯淵の傍まで進み、その場で土下座するゴンベエ。
 その姿には、曹操も含めて三人共が驚いた。

 この土下座、これも中国では【稽首】と言い、皇帝や神仏にのみ使われる最高級の敬礼であり、尊敬や絶対服従を示すためのものであって、基本的に謝罪を意味するものではないのである。
 だが、別の意味ではそれを示した相手に絶対服従するという意味ともいえる。

「すまんかった。真名っちゅうんが、それほど大切なもんとは知らんかった。ワシには
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