閑話1 〜追憶の日々【暁 Ver】
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──────── おはよう、兄さん
「ねぇ、ランスターさん。変な娘がいるって噂、聞いた?」
スバル・ナカジマ。訓練校入学と共に同室となった。あたしほどではないが座学、実技共に優秀。何かとあたしにかまう態度や言動が目立つが、あたしは必要以上に馴れ合うつもりなどない。精々あたしの役に立ってくれれば良い。その程度にしか考えてはいなかった。
「変な娘?」
思わず聞き返したが、生憎と該当する人物は思い浮かばなかった。敢えて名を上げるとすれば、目の前にいる彼女だ。そもそも他人の噂になど興味は無い。そんなものは関係ない。あたしの目標の為には。意味の無い世間話に付き合うつもりもなかった。
「うん。誰とも口を聞かないんだって。おまけにちょっと乱暴な娘みたいで……同室の娘も怖がって教官に許可を取って部屋を変えて貰ったって」
それは随分な社会不適合者だ。集団生活が出来ないのなら最初からこんなところへ来なければいいのだ。勝手にすればいい。結局、困るのは自分なのだから。
「放って置けば? 班は違うんでしょ……なに?」
「……ううん。何でも無い」
この娘は時々、あたしに何か言いたげな視線を向けることがある。あたしは……その目があまり好きじゃ無かった。言いたいことがあれば言えばいいのに。その時。隣の部屋から聞こえた悲鳴で、あたし達は部屋を飛び出した。
隣の部屋にいるのは同期の娘。名前は……知らない。興味もなかった。あたし達が入り口に駆けつけたのと、同期の娘が転がるように出てきたのは同時だった。
「ちょっと、どうしたのよ。今の悲鳴はなに?」
「は、蜂が……」
震える声で名も知らない彼女が言った言葉にあたしは呆れた。開け放たれた入り口から部屋の中を覗き込むと、二匹の蜂が耳障りな羽音をたてながら部屋の中を飛び回っていた。ミツバチのようだ。窓が開いているところを見ると、そこから入ってきたのだろう。本当に馬鹿馬鹿しかった。たかが虫で。
「む、虫は苦手なの」
殺虫剤の類いがないのか尋ねたが、案の定ないらしい。あたしは手近にあった彼女のノートを丸め、飛び回っている蜂を駆除せんと動こうとした時。その声が聞こえたのだ。
──── だめ
呟くような囁き。なのにその声はあたしの耳にはっきりと届けられた。思わず振り返ると、部屋の入り口に一人の少女が立っていた。恐らく、あたし達と同期。訓練の時に見かけたような覚えがある。そこにいる同期の娘同様、名前は知らないが。夕焼け色した髪を背中へと流し、雪のような白い肌。何の感情も伺わせない左右色彩の違う瞳が、あたしを見ていた。
やがてその娘は興味を失ったようにあたしから視線を外すと、右腕をゆっくりと挙げる。すると、それが合
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