暁 〜小説投稿サイト〜
或る皇国将校の回想録
第一部北領戦役
第五話 敗将の思惑 敗残兵達への訪問者
[5/7]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
長が軽く掌を挙げながら言う。
「失礼ながら。中佐殿の権限を伺いたいのですが。鎮台を、陸軍をどの程度動かせますか?」
 その声は和やかではあったが感情は一切込められておらず、愛想よく微笑している姿も笹嶋にしてみれば、隣に座る新城の仏頂面と何も変わらないものであった。
 ――やはり聞くか。
「当然の質問だな。私は転進支援司令として転身作業全般を監督する権限を与えられている。」

「指揮ではなく、監督ですか・・・。鎮台司令部がいつでも口を出せる と。」
 少々憐れむ様な口調で馬堂が云った。
「ん、まぁその通りだな。正直どんな権限なのか自体よく解らん。そうした次第で君達にも下手に出ている訳だ。」
 馬堂少佐は考え込む時の癖なのかまた目を覆っている横で新城が面白みを覚えた表情になる。
「で、まぁ頼みたいのだ。」
 一瞬静寂が降りる。
 千早が尻尾で地面を叩いた音が響くと、それが合図であるかのように馬堂少佐が口を開いた。
「……何日稼げと?」
 ――やはり、解っていたのか。
笹島が溜息をつき、云った。
「十日だ、少佐。 鎮台を救い出すのに君達に十日稼いで欲しいのだ――そうすれば何とかなる」
「我々を除いて、ですか」
新城が冷え切った口調で訊ねる。
 ――そんな事を聞かないでくれ。俺も良心が傷まないわけではない。
 笹嶋のなけなしの良心は弱音を吐き出させてしまった。
「美名津港が使えれば――良かったのだが」


「やはり使えないのですか?」
 予想していたのだろうか、新城はそう云って頷いた。

「美名津の人口は二千以上です。
《大協約》は美名津に勝馬に乗る権利を保障していますからね。」
 目を再び外界に晒した馬堂も皮肉気に口を挟む。

 ――そう、美名津はこの世界の共通法である〈大協約〉に記されている市邑保護の対象だ。協力を強要する事は出来ない。故に我々は寒風に兵士たちを晒したままだ。

 笹嶋は首肯するとこの二人の来歴から差し出せる飴を探るべく言葉を紡ぐ。

「そういうことだ、陸にも我々にも恩を売れる状況だ。
まず間違いなく家名は上げられるぞ。君達は五将家の駒城家の関係者だろう?」

「それに、一万二千の兵たちと三百五十程度の大隊では良い取引だ、でしょう?
 ――まぁいいですけどね。それを命ずるのが将校の仕事ですから」
 不貞腐れた様に馬堂少佐が言う。
「我が馬堂家は駒州譜代の家ですよ、家名も基盤も十分です。
まぁ確かに生還しても死んで〈帝国〉軍糧秣の礎になっても二階級特進にはなるかもしれませんね
御家が傾きかけてるならともかく、ね」
 そう云いながら胸を張る年下の大隊長を横目に新城大尉も苦笑しながら答える。
「僕は駒城の育預です。血は繋がっていません。
孤児がお溢れを頂いている
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ