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或る皇国将校の回想録
第一部北領戦役
第五話 敗将の思惑 敗残兵達への訪問者
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ている将校と話している。
 ――あの二人がそうなのだろう。
あたりをつけた笹嶋が云った。
「あの二人の近くに降ろしてくれ」

龍から降りる笹嶋へ二人の将校が近寄って敬礼した。
「独立捜索剣虎兵第十一大隊大隊長、馬堂豊久大尉であります。」

 ――幾度か身を戦塵に晒した砲術屋だと聞いているがそれでも人好きのする顔つきと声をした青年だった。
振る舞いは兎も角、顔つきは将家には見えない――その中身は如何程なのだろうか。

「独立捜索剣虎兵第十一大隊首席幕僚、新城直衛中尉です。」
 その隣に立つ、剣歯虎を連れた仏頂面の男へと視線を移す。
 ――彼が新城中尉か、駒城家の人間だと聞いているが、とてもそうは見えない。

「私は笹嶋定信中佐、水軍だ。転進支援本部司令を任じられている。」
 答礼をして、笹嶋は最初の要件を告げた。
「おめでとう馬堂少佐、新城大尉、君達の野戦昇進が正式に認可された旨、
本日中にでも連絡があるだろう」
それを聞いた二人の将校は、顔を見合わせ――顔をしかめた。


同日 第五刻半 第十一大隊本部天幕


「おい、あの龍に乗っていたのは水軍の司令殿みたいだぜ。これはひょっとしたら撤退命令じゃないか?」
 尖兵小隊長の兵藤少尉が云った。

「いや、それは無いって、大隊長が言っていただろ?
近衛が退くまでは増援は兎も角 撤退はあり得ないよ。」
 第一中隊長を任じられている西田は、それをあっさりと切り捨てた。
新城中尉の後輩で新城も高く評価している将校であり、剣虎兵少尉の最先任としてまとめ役についていた。

「それに馬堂大隊長殿達を野戦昇進させたのですから、まず無いでしょう。」
第三中隊長の妹尾少尉も口を開いた。生真面目な性質で元々は強襲を専門とする鉄虎中隊の将校であった。

本部付き鋭兵小隊長の杉谷少尉も首を振って言う。
「気持ちは分かるがね、八百人以上いた大隊も四百半ば、将校団は文字通り壊滅。
大隊長達も何か考えているようだが補給と補充がなければ何も出来んな。」


「頼りの砲は弾切れ寸前、猫は十匹しかいない、使える導術兵も疲労困憊の十人きりですからね」
 本部幕僚の漆原少尉が零す。
生き残った戦闘兵科の将校の中では一番の若手であり、生真面目な性格である為に再編の苦労を侘しい陣容となった本部要員と共有した為に、大隊の悲惨な実情を最もよく理解していた。

「鎮台兵站部に物資支援の要請だけは出したのだけどね、
あの水軍司令殿がなんかしら情報を出してくれれば助かるのだが。
もしくは撤退とか、後は撤退とかも魅力的だな」
輜重中隊から引き抜かれた兵站幕僚である米山中尉が疲れた顔で白湯を啜りながら云った。

兵藤がお手上げとばかりに手を上げる
「だから撤退だって撤退
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