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或る皇国将校の回想録
第一部北領戦役
第五話 敗将の思惑 敗残兵達への訪問者
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ていたお陰で導術兵と砲だけが損害を出していない事だ。
だがそれらも消耗が激しく砲は弾切れ寸前(備蓄のなかった擲射砲は完璧に弾切れしている)、導術も疲労が激しく休ませなくてはならない。

 分かりきっている結論が出た。
 ――まともな戦争はやはり不可能だ。豊久も何か考えている様だが、真室大橋を落として稼いだ時間は無限ではない、補給が無いともはや限界だ。
本来ならば、後衛戦闘は不可能、留まるにしても一時的に後退し、補充と再編を行うべきだ。
だが豊久はこの部隊の早期撤退が許可される可能性は薄いと考えている。
 ――何故か?僕達と同じく最後衛にいる近衛旅団が問題である。
そう、実仁准将――皇族を戦死させる事も英雄にするわけにもいかないからだ。
陸軍の中でも衆民の将校が増えている時に皇室直属の近衛総軍、それもよりによって弱兵で有名な近衛衆兵――大半が衆民で構成された部隊――がこの負け戦の殿軍を為し遂げる。
それも親王が直々に指揮をして、だ。その意味は推して知るべし。
もし、失敗しても敗北したのは北領鎮台司令官である守原大将、畏れ多くも親王殿下を敵弾に晒したと非難されるのは当然だ。
どう転んでも守原は弱まり、皇室が強くなる。 守原英康がそれを容認する筈は無い。

 ――だがそれは兵にとっては関係ない話だ、誰が英雄になろうとその指揮下で死んだ者にとっては、ただ誰が死を命じたかの違いにすぎない――下らない、迷惑な話だ。

用を済ませ、本部天幕へ向かおうとすると、彼の直属の上官となった馬堂豊久大尉は天を仰いでいた。

「どうしましたか?大隊長殿」
「ん?新城――中尉か。ほら、あれ、どうも思ってたよりか守原か水軍に気が利く御仁が居るようだ」


同日 午前第五刻半 独立捜索剣虎兵第十一大隊上空
転進支援本部司令 笹嶋定信水軍中佐

〈皇国〉水軍中佐にして転進支援本部司令である笹嶋定信中佐はその時、生命の危機に瀕していた。
――凍えそうだ!むしろ鼻の穴が凍って貼りついている!
慌てて手袋越しに鼻を擦るが、その瞬間に張り付いていた鼻孔から凍てつく空気が体内に侵入し、笹嶋は悲鳴を堪える。
「頼むから早く下ろしてくれ!」
 ――飛龍は最速の乗り物であると聞いたが、もう二度と乗るものか!
 笹嶋定信の固い決意を他所に龍士は刻時計と羅針盤をちらりと見て告げた。
「もうすぐ到着しますよ!中佐!この負け戦の最後衛で踏ん張っている勇者達の所に!」

「こいつから降ろしてくれるなら馬鹿でも勇者でも構わんよ!」
 そう叫んだ直後に笹嶋は慌てて口を閉じた
風が強いので怒鳴りあいになってしまうのでどうしても体内に冷気の侵入を許してしまう。

「見えましたよ!」

目を下ろすと便所の近くで用を足し終わったらしい将校が此方を見つめ
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