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世紀末を越えて
プロローグ
エンカウント・ワン
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 時刻は八時、とうに日は沈み、街灯も無い砂利道を、ただ炉端に建つ誰の家かも知れぬ木造の家から覗く微かな光を頼りに道を私は一人歩き続けた。学校からそう遠くない所に私の住んでいる家、この島に唯一存在する孤児院がある。私はいつも通り帰宅し、院長さんからいつものように説教を受けるはめになった。一日中学校をサボっていたのだからまあ当然の結果と言えよう。通常孤児という者は、親の何らかの理由でその子供を育てることが出来なくなった場合、というより育児放棄、虐待などから守るために施設がその親から親権を剥奪させ、子供はここに送られてくることになるそうだ。しかし私の場合は少々違った。私はある日の朝、この院長さんが私を見つけたそうだ。毛布にくるまれ、ゆりかごの中に入った状態で、玄関の前ですやすやと眠っている私を。だから書類上では、この院長さんが私の親ということになっているが、そんな訳で私には生まれつき親という者がいない、ということになっている。そんな私は今日、普段とは異様に異なる出来事が一つだけあった。私は、私の中で一度殺されたのだ。あれは一体なんだったのだろうか、それだけならまだしも、困ったことにその嫌な感じは今も続いている。嫌な気配と言った方が正しいのだろうか。ソファーやテレビの後ろ。カーテンの裏…。

「どうかした?」
「いいえ、別に何も。」
「どこか具合でも悪いの?」
「そういう訳じゃ無いんですが…。いや、少し気分が悪いかなって。」
「あなたが?ずいぶん珍しいわねえ。じゃあもう今日は中に入って早くお休み。」
「はい。」
「どうする?明日学校行く?」

 
 事実私が風邪を引いたことなんて、少なくとも私の記憶には無かった。体調が悪くなるなんてことも。それが表に出る程となれば、やはり普通のことではないのだろう。私は院長さんの言う通り今日は早く寝て、明日は学校を休むことにした。その原因なんて私には分かりきったことだ。他の人には分からない、話したって信用してはもらえない、私の中で起こった想定外の事態。あんなことは今まで一度も無かったのに…

「いいえ大丈夫です。では私はこれで、失礼します。」
 そう言い、私は部屋に戻る。六畳程在る私の部屋にはベッドと簡素な机しか置かれていない、私はベッドに横になり、溜息を一つ漏らした。

「いつまで続くんだろ。」

机の下、その影の奥を見つめる。そこでは何かが蠢く気配があった。それは今は私の目では捉えることは出来ないが、確かにそれは存在している。私は時折低俗霊が見えることがある。しかしそれらでさえ、私の顔をただじいっと覗き込み生前の愚痴を私に小一時間言い聞かせた後またふらりとどこかへ行ってしまうだけであったが、今回のこれは明らかに、特定の私に対してのみ用があるようだ。もう消灯時間はとっくに過ぎているものの、辺りは
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