第三章:蒼天は黄巾を平らげること その4
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きた豚に圧殺される』というものでしたね」
「今日は空に関係する事ですよ。私は夢の中でですね、大きな丸い光を掲げていたんです。目も眩むようなものなのに不思議と眩さを感じない。何処か高揚とした心で、私はそれを真ん丸な太陽なのだと直感しました。大地を照らす、母なる光です」
長らく旅に付き合ってきた稟ならば分かる。真名を風といい、普段からおっとりとしてつかみどころのない少女は、時としてこのような詩的でありながら、確信に満ちた言葉を言い放つ。それは兵法書の編纂者すら驚愕させんほどの軍略の冴えから生まれ、あるいは現世の真実に気付いた時に漏れるものである。冷厳なまでに自分自身を客観視し、自らの定めを理解する。事の全体の流れを把握する事も稟の得意とする所であるが、風のそれはずば抜けて鋭きものであった。それがこの少女の鬼才たる所以であり、伊達に不義不徳の乱世を生き延びたわけでは無かった。
彼女は地平線に沈みゆく燦然とした日を見詰めながら続ける。
「私の傍には稟ちゃんが立っていました。星ちゃんが立っていました。そして、黒い影に塗り潰された二つの人影が、私と同じように太陽を掲げていました。その人達を見た時に思ったんです。ああ、私が行く未来には、きっとこの人達が待っているのだろうと。この人達こそが大地を照らすに相応しい、自分の道を邁進できる人達なんだろうと」
「・・・それは、あなたが仕えるべきお人ですか?」
「稟ちゃんも一緒に御奉仕するんですよ。だって夢の中では、皆が自信に満ちた、かっこいい笑顔を浮かべていたんですから。もちろん、私もです」
愛くるしい子猫のような笑みを浮かべる彼女に、稟は形だけとってみせた微笑みを返す。風の言葉が信用できないという心算はない。だが、果たして自分自身がその未知なる人物に心よりの忠誠を誓えるかどうか。旅すがら邂逅してきた豪族らはいずれも稟にとっては凡才の域を出ぬ、つまらぬ者達であった。此度の戦で下剋上をされたあの愚かな領主もその一人である。ひょっとしてこの大陸にはもうまともな人間がいないのではないかと考えていた頃に、風のこの発言である。
きっと現れるであろう、風が本心から仕えられる御仁は。だが自分にとってそれが最良の主であるとは限らない。その者の実力と権謀術数、人を治める者としての器を試さずしていられないのだ。それが天下の神算を得た、郭奉孝がなさねばならぬ事であり、決して妥協のできぬものであった。自らが仕える以上、天下を得させないままでいるというのは誇りが赦さない。
胸焦がすものを抱いていると、城壁に兵の一人が駆けあがってきて、分かり切った事を告げてきた。
「報告します。王度の兵たちが次々に敗走していきます!我々が勝ったんです!御二人の策の御蔭で!」
「・・・民に報せて下さい。危難は去ったと」「はっ」
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