第三章:蒼天は黄巾を平らげること その4
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分こそが先に死んでしまうのではないか、とな」
年配者の余裕を吹かせながら孫堅は立ち去っていく。錘琳は気にする素振りを見せなかったが、しかし孫堅に声が届かないであろう距離まで離れた時、ぽつりと漏らす。
「大人って、だらしない・・・」
その言葉は穿った捉え方でなくとも悟る事の出来る、孫堅が先んじて獲得した同衾の喜びに対する妬みが含まれていた。ただ一度の戦場を共にしただけでこうもあっさりと互いに悦びを得んとするのは、貞淑観念のある錘琳にはあまり感心のいかぬ所であった。襲う方もそうであるが、それをあっさりと受け入れる方も問題である。
錘琳はつかつかと軍靴を鳴らして仁ノ助の天幕に入っていく。鶏が甲高く囀りそうな朝焼けの中、鋭い蹴打の唸りと、痛々しい男の悲鳴が響いた。
ーーーその頃、黄巾党の本拠地にてーーー
丁儀は頭を深く悩まされる事態に直面していた。自称大陸一の占い師と一蓮托生の身となったのが運の尽きか。最近彼の近辺では、まるで時の大河がうねりを上げたかのように物事が急に進み始めたのである。
かんからと晴れた陽射しを受けて、猪の全長ですら凌駕するほどの大きさを誇る鈍色の盃が、人の腰ほどの高さのある台座に置かれた。労働力である党員たちは安堵の息を漏らして、自らを睥睨するかのような得体の知れぬ盃に気圧されていた。このような大きな盃自体はじめて見る代物であるが、その用途、目的すら告げられぬまま彼らはこれを設置しているのである。平凡な人生を歩んできた者達にとっては不気味なものを感じずにはいられない。
「あ、あの、盃を設置しましたが・・・」という党員に、「よくやった。これで全部が設置し終わったな。次はこれに火を燈すのだ」と丁儀。党員らは神妙な顔つきのまま種火を中に入れた。
「火を点けよ」
松明が一本投げられて、種火の上に落ちたと思った瞬間、まるで火山の噴煙のように炎が勢いよく立ち上った。どよめく党員らの前で炎は七色に色彩を変えて、やがて夕闇を思わせる薄紫に落ち着いた。だがそれとても時折背筋をぞっとさせる紫紺の火花を散らす有様。人為というにはまがまがしさが過ぎるものであった。
「・・・あの、丁儀様。オラたちはこれで大丈夫なのでしょうか?」
「仕方あるまい。頭領が仰せの事だ。従わぬわけにはいかんだろう?」
「ですけど、オラ、こんなやばいものを見たのは初めてです。見るだけでブルってきちまいます。張角様は、何を考えてらっしゃるんでしょうか」
彼の疑問に答える事はできず、丁儀は全ての盃の火が確りと燃えているかを再度確認して居城へ戻らんとした。大通りを抜けんとした時、露天を開いた占い屋の爺を見ると、丁儀はその者に向かって問うた。
「見逃していいのか。あれはどうみたって妖術の類だぞ」
「わ
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