第十話 〜アスナが地球へ行くお話 後編【暁 Ver】
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──────── 6 years ago.
新たに草木が芽吹き、小さな命が誕生する季節。そんな時に私の時間が終わりを迎えようとしているとは、何とも皮肉な話しだ。長年連れ添った夫も去年逝った。家督はすでに子供達へ譲っている。ここまで生きてこられたのだ、悔いは無い。悔いは無いが……一つだけ心残りがある。
ぱたぱたと規則正しいリズムを刻んで私の病室めがけて走ってくる音。頬が自然と緩んでしまう。今日は何を持ってきてくれるのかしら。昨日はキラキラしたビー玉。その前は潮騒が聞こえる貝殻。その前はおもちゃの指輪。全て彼女の宝物で、私にとっても宝物だ。昔から道ばたで興味が湧いた物を拾ってくる癖があった。夫などはよく「まるで犬みたいだな」と笑っていた。
彼女達を養子にして数年たった頃。一向に成長する兆しを見せない彼女を心配した夫が、病院での検査を提案した時に彼から聞いた話。『次元漂流者』であることは承知していた。彼が何者で、彼女がどんな世界で生きてきたのか。私は気がつくと、二人を抱きしめていた。きっと泣いていたと思う。
あの時。私たちは本当の意味で『家族』になったのかもしれない。もっとも彼女は一度も『母』とは呼んでくれないのだけど。
もう通い慣れた道。いつもはお兄ちゃんか、ダウランドのおっちゃんが一緒に付いてきてくれるけど、今日は一人だ。病院の中は走ったらいけないと言われてるけど、自然と早足になって駆けだしていた。扉の前で息を整える。おばあちゃんに気付かれないように、今日の『おみまい』を後ろに隠しながら扉を開ける。
「……おばあちゃん」
「あらあら、今日は一人で来たの? 『ひーくん』は?」
おばあちゃんはお兄ちゃんを『ひーくん』ってよぶ。お兄ちゃんはいつも困った顔をするけど、すこし嬉しそうだからいいのかもしれない。
「……おにいちゃんは、あとでくる」
「そうなの。それで? 後ろに何を隠してるのかしら」
ばれてしまった。ばれてしまったからにはしかたない。今日のはすごい。不思議生物だ。私はみぎのてのひらを、おばあちゃんにつきだした。するとてのひらにいたものが一声鳴く。おばあちゃんはすこしだけ目をまるくした。やった。
「あらあら、可愛い蛙さんね」
「……かえる?」
「そう。おばあちゃんが子供の頃はたくさんいたのよ。今はあまり見なくなってしまったわね……懐かしいわ」
……不思議生物じゃなかった。お兄ちゃんにだまされた。お兄ちゃんはときどき、てきとうなことを言う。でも、おばあちゃんがすこし嬉しそうだから許してあげよう。おばあちゃんといっしょは嬉しい。楽しい。おばあちゃんも嬉しそう。でも──── 次の日、おばあちゃんは二度と笑うことは無かっ
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