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世紀末を越えて
プロローグ
その樋泉あゆの戸惑い
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た。どうもここではないらしい。次々と場所を写していくうちに私は赤陰を見た。遥か彼方で数えきれない程の赤が蠢いていた。混沌と狂乱と、そして血の、赤、黒、赤、黒、赤、赤、赤、…
そんな、私にとって、それが如何に恐ろしいことか…。黒が、赤を纏っているのである。その黒の一部がこの黒の大地を揺るがしながらこちらに向かってきた。凄まじい速さだ。それが私を殺しに来ているというのは直ぐに分かった。それは私の考え得る動く生き物の中で何よりも大きく、速かった。しかし、どういう訳かそれは、その黒が私の視界を覆い尽くした所で急に減速し、そしてこう叫んだ。私の鼓膜が破れんばかりの声で。
助けてくれ
 
 私の世界はそこで弾けてしまった。そうして弾けた世界の欠片は辺り構わず霧散してしまったのだ。
 
 既に私の意識は外にあった。もうだめだ。私はそこで初めて絶望という感情を知った。この自分の意思では仕様も無い感覚が今この全身を押さえつける。全身を駆け巡る。まるでこのまま私という体、その存在が、少し気を抜くと、このままどろりとした液体となり、外へ漏れだし、この途方も無く、存在の所以を見失いそうなこの世界で、私の存在が消えてしまいそうになる。私はそこで何度も私の置かれる状況を確認し、気怠い私の体。それはまるで起き上がる気配を感じられない。私はどうにかこのぴたりと地面に密着したその体、同じくそこから延びる、と思われるその腕を、私の体が崩れてしまわない様に、出来る限りゆっくりとした速度で、比較的綺麗なコンクリ固めのその地面に接したまま動かし、長い月日放置され続けた埃や塵、雨や風にも流されず、そこに蓄積され続け、そんな黒ずみのざらついた感触を愛でていた。要するに、そう。ただ、それだけのことなのだ。
 
 今現在、放課後の静寂が、私を取り巻いている。これが唯一の救いなのかもしれない。そう、今日はどことなく調子が悪かった。未だ夏の日差しが残っているとはいえ朝から夕方まで、こんなコンクリートの床の上で寝ていれば調子が悪くもなるだろう。という訳でもないらしい。眠っている時もそうだった。何か嫌な物が、私の胸の中で渦巻いていた。彼、樂間君のせいというのも考え難い。別に彼がこそこそと私の周りをまとわりついてきても今まで何とも思わなかったのだから。地面から体をどうにか起き上がらせる。空咳を一つ零して、そうして私は屋上から去った。

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