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世紀末を越えて
プロローグ
ニル、アドミラリィと樋泉あゆ
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 ところで彼女にはニル、アドミラリィという、何事にも驚いたり感嘆しないような気象があるように思える。
 
 
 それはあくまで表面上の話であって、本当は違うのかもしれない。内面上は知らない。彼女は自らの身の回りに起きること全てを良しともせず、また悪しともしない。全てを、ただ静かに、まあ、そういうこともあるのかもね、と、静かに認めるのであった。

それはつまり群れの中に入ることを拒絶する、いや入ることができないことを意味する。人間の中で云われるところの群れ、友達という物は、同じ環境を共有し、共に共感し合える仲のことを云うのだから。ただ、彼女はそれさえもまあ、そういうこともあるのかもね。と一言、憂い嘆く様子も無く、静かに認めるだけであった。彼女の意識は常人よりも遥かに広いのかもしれない。

 
 それに対して僕の考え方はいつも否定的だ。それは世界を否定的に捉えることで相対的に僕が輝いていたいからであろう。

それなのに周りからはよく君はとても幸せだよ、ほんとにいいよね、きみは。だから君はこんなにも優しいのかな、僕も君のようになれたらいいのに。と言われる。

果たして僕は今幸せなのだろうか。僕としてはそんなことを思ったことなど殆ど無いのだが。しかし考えてもみると逆に僕は自分が不幸な人間であるということもまた、思ったことが無いのだ。それはひょっとすると僕がこれ以上無いと言わんばかりの幸せを長い間感じ続けていたために、それを幸せと認識できていないだけなのかもしれない。不幸なことに僕は幸せ過ぎたのだ。それは輝かんばかりの白の紙に同じ白の鉛筆で描いた物が何なのか分からないように。ならば僕はそれにひとつまみの黒で、ていねいに縁取ってみようと思う。それを彼女と共有できることならば、ああ、何と喜ばしいことであろうか!


 僕はそうして階段を一段一段感触を確かめながら登っていった。最後の折り返し、そのさきに階段は存在しない。そこには扉があった。ゆっくりとドアノブに手をかけ、ぼくは屋上へ、今日はとても良い天気だった。授業の開始を告げるチャイムがあたりに響く。慌てる必要など微塵も無い。これは授業や周りの自分に対する評価などよりもずっと重要なことなのだ。自らが期待した影が無いのを理解した僕は淀みなく給水タンクの裏に回った。そこには人が三人ほど入れる隙間がある。

全校生徒四十人の、島の学校では最早知る者の少ない、僕と、彼女しか知らない隠れ場所である。彼女がここにいる時は、確実に眠っている。その姿は、無防備で、思わずそばにいたくなるのだ。いつも以上に。(もし起きていたらどうしよう)ふと、そんなことを考える。彼女は僕が授業をサボってまでここに来ていることを知らない、また、その理由が自分の近くにいたいからということも。(それはそれでいいか)彼女はその程度の
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