第一部
第二章 呪印という花を君に捧ぐ。
シノ
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の頬にはちょうどそれらの蟲が通れるくらいの小さな穴が開いている。
――チキチキチキチキチキチキチキチキチキチキ
その蟲は、奇壊蟲と呼ばれるそれは、シノの皮膚を穿ち、体内から溢れているのだ。気味が悪いと、本能的に思った。
――チキチキチキチキチキチキチキチキチキチキ
「どんなハッタリかまそうってんだ? ――ッ!?」
――チキチキチキチキチキチキチキチキチキチキ
気付く。
――チキチキチキチキチキチキチキチキチキチキ
この音、シノの体から溢れてるものだけじゃない。
――チキチキチキチキチキチキチキチキチキチキ
振り返る。
――チキチキチキチキチキチキチキチキチキチキ
そしてそこにいたのは、大量の奇壊蟲だった。胡麻を一面ばら撒いたかのように、床には大量の奇壊蟲が這っている。黒い点が幾つもこちらに向かってきていた。チキチキチキと、不気味な鳴き声を角笛の代わりに、蟲の大軍が行進してくる。どよめく黒は落ち着いていて、術者のシノを思わせた。
「こいつらは奇壊蟲と言って、集団で獲物を襲い、チャクラを食らう。――これだけの数で襲い掛かられれば、お前は間違いなく再起不能になる」
――チキチキチキチキチキチキチキチキチキチキ
悔しそうに歯軋りしながら振り返ったザクに、シノは尚も淡々と告げる。
「嫌ならギブアップしろ。それが得策だ。……もし、左手の術を俺に使えば、それと同時に、背後から蟲に隙をつかせる。逆に術を蟲に使えば、それと同時に、俺が隙をつく。いずれにしてもお前は、ここを突破できない」
――チキチキチキチキチキチキチキチキチキチキ
蟲の鳴き声が迫る。シノの両手が印を組んだ。
「――奥の手は、取っておくものだ」
――チキチキチキチキチキチキチキチキチキチキ
それはまるで、静かに勝利を宣言しているかのようで。
ギリッと、ザクの口内でその歯が音を立てた。
ずっと前、ザクは独りだった。
親も、家も、何もなかった。生きる為に、スリをするか、万引きするか、奪うか、盗むか、それくらいしか手段は残されていなかった。だからその日もザクは、食べ物を得る為に、近くのパン屋に入って、そして客のパンを奪って逃げ出したのだ。
――こらァア!――
――待ちやがれェエ!――
客と店主の怒鳴り声がザクの後を追う。子供の自分の足と大人の彼等の足ではあまりに差が大きすぎた。なんとか逃げ切って撒いてしまわないと、また腹を空かすことになる。でも、その足音はどんどんと迫ってきていた――丁度今聞える奇壊蟲の鳴き声同様に。怖くて、不安で、ただただ必死に走っていた。
丁度見えた曲がり角を曲がる。途端視界に飛び込んできたのは大きな壁、つまり行き止まり。黙して静かでありながらザクの進路
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