第一部
第二章 呪印という花を君に捧ぐ。
笑尾喇
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臭いだ。それは戦いの臭い。いい匂いとは言えない。これは女の子の匂いじゃない。けどこれはくノ一の臭いだ。それもこれは、戦うくノ一だけの臭いだった。
マナはどこかでこの臭いを嗅いだことがある。それが誰からの臭いからはわからない。けれど若しかしたらそれは母の、狐者異ネリネと言うらしい母の臭いなのではないかと今なら思う。
「……お腹空いたなあ」
はじめ、早く帰ってこないかなあと空を見上げる。腹がぐう、となった。
マナは凭れ掛かってくるサクラの白い手首を掴んだままにぽっかり浮んだ月を浮かべて、小さく溜息をついた。
+
――最低だ最低だ最低だ。
――しんじゃえしんじゃえ、私なんかしんじゃえ。
汗が滲み、体が震える。「後の」少女は泣き荒びながら背後の大樹にもたれかかる。
それを、「後の」ドスが冷たい瞳で眺めていた。
+
「おはよう、……って、もう朝?」
あの後はじめが帰ってきて、二時間ほど見張りをし、そしてサクラを起こしてからも数時間一緒に見張りをしていたが、やがて眠りについた。サクラは寝る間際のはじめに水球を水筒の中に足してくれるよう頼み、それから既に温くなった手拭いを取って、サスケの額に乗せる。ユヅルは先ほどよりもずっと落ち着いてきていた。笑尾喇ももう付近には大蛇丸がいないことを悟ったのかもしれない。ただサスケの熱は一向に下がらなかったし、とても苦しそうだった。それでもサクラに出来ることはこうやって看病し続けるだけだ。
――私が二人を守らなきゃ
ぎゅっと拳を握り締める。はじめもマナも、ユヅルさえ落ち着けばサクラ達を手助けする義理はない。はじめが採ってきた木の実を一粒、口の中で噛み潰した。甘酸っぱい味がする、と同時に、気持ち悪くなった。毒でも入っていたのだろうか? いや、それなら今はマナの傍で丸くなっている紅丸がはじめにそう警告していた筈だし、第一はじめがそれを食べてから眠ったのをサクラも目撃している。
腸が引きずり出されるような感覚に口元を押さえた。ぼんやりと遠くなりかけた意識の中で、穏やかに眠るユヅルの胸元が僅かに発光する。
――小娘。そう、お前だ。お前、この封印術を解けるか?
――貴方は……
二足歩行の犬が、白装束を纏ってそこに立っていた。これは幻覚だろうか? 目を擦っても、その姿は消えずに、犬の癖して紅を塗った口元を笑うように歪ませるだけだ。
――あの木の実は、食べた人間を眠りの境へ追い込む作用を持ってる。毒ではない、寧ろ薬に近いな。後ほどあの黒い髪の小僧にも食わせてやれ、幾分か落ち着くかもしれぬ
――眠りの境? ……それって、
――眠りの境に追い込まれれば、人は正気も狂気もない。一分でも多く留まろうとすればするほど、お前の目は冴えて
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