マザーズ・ロザリオ編
終章・全ては大切な者たちのために
領分
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、おかげさまでな。姉さん」
だが、2人の闘志が消えた訳ではない。
螢は殺意を飲み込んで『静』の極致へ。
桜は『動』の極致に至るための溜めへ移行しただけだ。
「降参しなさい、螢。あなただけは殺したくない」
「出来ないな。あのイカれた医者には恩がある」
「仇があるでしょう?私達にはあの女に復讐する権利がある」
「殺すほどのか?」
「そうよ」
俺は肩を竦めると、地面を指して言った。
「取り合えず座ろうぜ。長い話になる」
「……地べたよ」
「さっき掃いといた」
「…………」
彼女は呆れたようにため息を吐くと、ハンカチを取り出してそれを敷いてから座った。俺もその場に腰を下ろす。
「あくまで提案だが。お互いの主張をはっきりさせておきたい。なんせ長いこと会って無かったからな。変わった考え方とかもあるだろ?」
「いいわ。妥協点が見つからなかったら――」
「――やり合う。簡単だろ?とまあ、ババアの件は決裂でいいな?」
「ええ」
俺がしているのは単なる時間稼ぎではない。というかこの姉は俺の足止めに来ているだけだ。本命はさっき入れてやった6人の暗殺者だ。
「では聞こう。姉さん、あんたは何のために戦っているんだ?」
「今も変わらないわ。私は―――誰にも知られずに死んでいく人達の存在を知らしめるために戦っている。この平穏が、どれだけの犠牲を払って成っているのかを…………世間の能天気共に教えてやるわ」
「知らせてどうする?大衆がそれを褒め称えるか?そんな訳無いだう。社会の混乱を招くだけだ」
「螢は悔しく無いの!?物心ついた時にはもう武器を握っていて、挙げ句の果てにそんな腕になって……怖がられるだけじゃない!」
「生憎だが、今の友人連中は奇特な奴等でな。俺の素性を含めてあっさり受け入れられている。まあ、そんな奴等の為にもこうして姉さんと対峙しているんだがな」
「そうね……あなたはそれで良いかもしれない。だけど誰にも分かって貰えず、孤独に過ごす人が大多数よ。ベトナム戦争の話がいい例よ」
ベトナム戦争は「リビングルーム戦争」とも呼ばれる。
1960年代、テレビが急速に普及し一般家庭にブラウン管が常備されるようになった。当初はアメリカのテレビ局が現地で撮った映像は日本に運ばれ、現像・編集。衛星放送でアメリカの家庭に届けられる。時差の関係でアメリカでは戦場の映像が同じ日付の内に居間で見ることができた事がこの名の由縁だ。
戦争初期、アメリカメディアは共産主義という悪を倒すために戦う善なるアメリカの若者達をさも勇敢そうに報道した。だがアメリカ国民も馬鹿ではない。戦争が長引くにつれ、今まで隠されてきた映像を編集した映画が公開された事から事態は急変する。
『北ベトナムの内情』
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