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剣の丘に花は咲く 
第十章 イーヴァルディの勇者
第三話 空から女の子が?
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 締め切られた窓にはカーテンで隠された部屋の中は、テーブルの上に置かれたロウソクの明かりが唯一の光であった。ロウソクはテーブルの僅かな周囲しか照らすことはなく、テーブ

ルから少し離れると、伸ばした手さえ見えない程に暗い。
 そんな仄暗い部屋の中、テーブルの前に座る士郎の姿があった。
 椅子に浅く座りながら、士郎はロウソクの小さな明かりで手に握った紙を見つめている。

「……ふぅ」
 
 溜め息を吐き、目の前のテーブルの上に読み終わった報告書を投げ捨てると、ギシリと音を立てながら、士郎は椅子の背もたれに寄りかかった。グッと身体を曲げ、天井を仰いだ士郎は、朝からずっと送られてくる報告書を読んでいたことから、凝り固まった目の周りの筋肉を指で揉みほぐす。
 だが士郎の顔が顰められているのは、疲労のせいだけではなかった。
 目の周りを揉みほぐしていた指を離し、士郎は天井を仰いだ姿勢のまま、目線だけをテーブルに置かれた報告書に向ける。
 士郎の視線の先、テーブルの上に幾十も折り重なった報告書は、情報屋から集めたガリアの情報であり、その内容は多岐に渡っていた。
 その報告書の山を見る士郎の顔色は冴えない。

「……これが事実なのだとすれば、ガリア王ジョゼフは……」

 目の周りを揉みほぐしていた手を離し、その手で顔を覆う士郎。顔を覆った手の隙間から漏れた声は、何処か戸惑いの響きが混じっていた。
 「ふぅ」と濃い疲労の色が見える溜め息を吐き、さて、これからどうしようかと士郎が首を傾げた時、その背中に、
 
「―――お疲れのようだね」

 女性―――ロングビルの声がかけられる。
 何時の間にか、音もなく部屋の中に入ってきたロングビルから声をかけられた士郎だが、驚きの声を発することなく首を回した。

「まあ、な。確かに流石に疲れた。内容が内容だから、見られると困るからな……おかげで余計に神経を使ってしまって」

 あからさまに疲れたと言った溜め息を吐いて愚痴る士郎を、ロングビルはによによと何処か怪しげな笑いを浮かべながら見つめている。幸か不幸か? 疲労で目と思考が弱まっている士郎は、ロングビルが浮かべている笑みに気付いていない。
 顔を前に戻し、首を鳴らす士郎に向かって、ロングビルは後ろ手に何かを隠しながら近づいていく。

「ふふふ……そんな頑張るシロウに、ほら、差し入れだよ」
「ん? 何だこれ?」

 背中を向けた士郎の背後に立ったロングビルは、くふふと喉の奥で笑い声を上げながら背後から士郎を抱きすくめる。士郎の顔の前で組まれた手には、一冊の本の姿があった。
 ロウソクの明かりに照らされ浮かび上がる表紙を見た士郎が、疑問というか呆れた声を上げた。

「最近トリスタニアで流行ってるんだってさ。わたしも読んで
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