第九話 〜アスナが地球へ行くお話 前編【暁 Ver】
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を持ち始め、共に過ごしていく内に桐生もアスナも彼を只のAIとして見ることが出来なくなってしまっていた。デバイスマイスターとしては笑い話にもならないかも知れないが、桐生はそれで良かったと思っている。
作業が一段落したのか、桐生の指は当たり前のように煙草へと伸びていた。
「それに、余計な機能なんて言うとアスナが悲しみますよ?」
『それは、そうだね。すまない』
それ以降何も言わなくなったボブを見ながら、桐生は煙草に火をつける。ゆらゆらと揺らめく紫煙を見つめながら今は異世界にいる彼女に思いを馳せた。その当の本人は現在、大絶賛逃亡中だとは夢にも思わずに。
見たことがあるようで見たことのない町並みが、アスナの心を震わせていた。アスナが生まれた世界とも違う、桐生が生まれ過ごした世界。アスナは何かを忘れているような気がしたが、視界にそれを捉えるとすぐに忘却してしまった。アスナの目の前には赤い立方体。日本語は桐生に幼い頃から教わっていたので、話せるし読み書きも出来る。それは、こう読めた──── 郵便ポスト。
「……なんでこんなに赤い」
因みにミッドチルダで見られる一般的な郵便ポストは形状が違うし色は青だ。尤も、絶対数が少なくなってしまっている。アスナは暫く叩いたり投函口に手を入れたりしていたが、後ろから掛けられた声に思わず振り返る。
「おや、この辺りじゃ見ないお嬢さんだねぇ。外人さんかい」
──── 本当に可愛らしいこと。お名前は?
ほんの一瞬だけ。アスナの大切だった人と姿が重なった。
「ありゃ。おばあちゃんが声をかけてびっくりさせちゃったかい」
アスナは違うと思い直す。当たり前だ。アスナの母であり、祖母でもあった人は、もういないのだから。だが、目の前にいる年老いた女性は何故か思い出させる──── その人を。アスナが逃げ出すようにその場から立ち去ろうとすると、女性が転倒した。擦れ違った学生の集団とぶつかったらしい。ぶつかったことには気が付いているが、誰一人として女性を助け起こそうとする人間はいなかった。
「……おい」
ティアナとスバル曰く。アスナの声は酷く小さいのに、何故か聞き逃さない。そんな声が学生達の耳を打った。振り返った彼らが見たモノは。三日月のように口角を吊り上げて嗤う少女の姿だった。
八神部隊長から直々に『桐生アスナ捕獲作戦』の実行部隊に任命されたあたしとスバルは、フラッターから送られてくる行動記録の信号を追って町を走り回っていた。念話にも応答しない。元々アスナは念話を苦手としていた。
「どう? ティア」
「この近くのはずなんだけど……」
やがて、あたしとスバルがたどり着いたのは木造の一軒家だ
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