第一部
第一章 純粋すぎるのもまた罪。
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屋だった。だがマナの目にそのシルエットは入ってこない。入ってくるのは煎餅をほおばるかりっという音とその醤油の匂い。
「とつげきーっ!」
障子を打ち破る勢いで中に転がり込む。畳を蹴って低空飛行。地面から五センチほど浮いた体の指先が、皿に盛られた煎餅を巧妙に刈り取る。「ひっひゃああ!?」と女の子の悲鳴が響いた。自分と同じくらいの身長の少女。
「な……!?」
ばりばりと煎餅を貪りながらあたりを見回すと、兎に角ネジやヒナタやヒルマみたいな奴らが一杯いた。誰を見ても目につくのはその白い目で、それを見るだけで彼らが日向一族であると知る。ちらっと目の前に視線を向けると、目を見開いた少女がいた。いや、この場合幼女と言うべきか? アカデミーに入学してるかしてないかくらいの少女で、顔つきも幼い。切りそろえられた胸元くらいまでの髪や、顔に垂れる一本の黒髪の女の子だった。
一方その傍にいるのは艶やかな黒髪をオールバックにした男性だ。黒い羽織を纏っており、年は四十代ほど、といったところか。唖然としたその男の傍に、やはり数人の白い目をした男達がいた。
「え……っえ、……ええ……!?」
「ん? 食べないのか? もったいねぇなあ、アタシが食べてやるよ」
酸欠の金魚のように口をパクパクさせる少女の手から転がり落ちた煎餅をするっとごく自然な動作で掠め取る。
「……っち、ちちうえ……!」
自分が食べたことのあるものを見ず知らずの赤の他人に食べられるというのはこの少女にとっては初めてのことだった。それもそうだろう、彼女は日向宗家の次女、日向ハナビだ。彼女が食したものに手を出せるような人間など今まで一人もいなかったに違いない。どうしたらいいのかわからなくなって父を振り返ると、父――日向宗主、日向ヒアシは重い溜息をついた。
「ハナビ。彼女は狐者異一族の生き残り……狐者異マナだ」
「え……っ! でっ、でも父上! 狐者異マナは姉上と同じ年のはずでは……!」
ハナビが混乱するのも無理はない。132センチのハナビの眼前にいるのは彼女と同じか、もしくは彼女より背の低い少女なのである。大人びた顔つきをしているが、顔が丸っこい上にその身長なのであどけなく見える。
「……狐者異一族は体が育ちにくいんだ」
たくさん食べる癖に太りもしなければ背も伸びない。
頭の中は食べ物のことばかり。食べたもので頭がよくにもならん。
奴らは食べることしか知らぬ能無しよ。
――そう蔑まれてばかりの一族だったが、その戦闘能力には文句なしだった。戦場でも大層役にたった。
……けれどそれは戦場での話。日常ではやはりこのような感じだ。
「えーと、じゃあ今は……っ!」
「絶賛下忍中でーっす。今日はネジ先輩のおみまいー」
「ヒアシ様、
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