第一部
第一章 純粋すぎるのもまた罪。
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響き、ユヅルは頬杖をついて興味深そうにマナを眺めている。
そしてマナが食べ終わった頃に、組み合わせた両手を見下ろして、ぽつりと呟くように言った。
「迷惑かけてごめんね。……あんね、昨日みたいなこと初めてなんだ。いつもなら、あの程度の感情じゃ笑尾喇は出てこないのに。……ううん、羨ましいと思って笑尾喇が出てきたことなんて一度もないんだ」
「……ユヅルも、“あんね”って言うんだ」
「……え?」
話題とは全くないことを持ち出されて、ユヅルは目を丸くした。
「ヤバネもさ、“あんね”っつーんだよ。“あのね”じゃなくてさ」
“あんね、”と言うその声にヤバネを思い出してしまう。あんね、と。確かに彼女もよくそう言っていたような気がする。あのね、ではなくあんね、と。
「そこらへんさあ、家族なんだなあ、って思った」
あれだけの思いで笑尾喇が出てきたことに違和感を抱いていた。自分はただ、半ば言い訳というようにその違和感を吐き出しただけなのに、マナはそれをヤバネと繋げてしまった。“あんね”という一言だけで。
笑尾喇がぴくりと自分の中で動いた。笑尾喇が感じ取ったのだ、マナの羨みを。
ああそうか――マナは羨ましいのか、マナには家族がいないから。だからマナにはそんな些細な、でも確かな共通点を持ってる俺たちが羨ましいんだ。羨ましがられるほどに仲がいいわけじゃないのにね、と紅丸を撫でると、彼は嬉しそうに目を細めた。
「ま、気にすんな。もし笑尾喇が出てきてくれなかったら、あのままグダグダな長期戦になってたし、ネジ先輩の熱が悪化したりとかそれだけじゃ済まされなかったかもしれねえしな」
軽く笑って、マナは立ち上がった。紅丸がその頭の上に飛び乗る。
「じゃ、アタシ先行くわな。さっさと退院しろよ、そーじゃねーと突っ込みが足りねーわ」
手を振って、マナは病室のドアを押し開ける。
はじめにしてもハッカにしても、ガイやテンテンやリーにしても、十分足らずで去ってしまった。病室に一人ぼっちだった自分に寂しいかなんて一言も聞いてこない。そして長居も長話もせず、あっさりと去っていく。
でもそんな彼らが好きだ。自分は直ぐによくなるだろうと何よりもそう感じさせてくれる。そして、早くよくならなければと。
そう思わせてくれる彼らが、ユヅルは好きだ。
+
「おっじゃまっしまーす」
分家と言えど、ネジの家は中々に大きい。がらがらと引き戸をあけて中に入ると、ふわっと煎餅の美味しそうな匂いがした。ヤバイ、マジ美味しそう。途端に自制が聞かなくなり、ネジの見舞いのことはすっかり忘れて、るんるんで匂いを辿った。紅丸が頭の上で心配そうな鳴き声をあげるが知ったこっちゃない。
障子の向こうにいくつかのシルエットが見える部
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