第一部
第一章 純粋すぎるのもまた罪。
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ってやるものか、でもヤバネお前は行って来いってね」
「何そのツンデレジジイ」
赤い瞳を細めて笑ったヤバネにぽつりと零せば、すぐさまヤバネの手刀がマナの顔面にクリーンヒットした。じろりとヤバネがこちらを振り向く。血の赤がむき出しになった瞳が冷たい。
「しばくぞ」
「しばいてから言う台詞か? それは」
赤い目と黒い目のにらみ合いが続いたところで、あーっ! とキバが声を上げた。「ゆっ、ユヅル! お前彼女でも出来たのか? あの花きれーだなー!」とはしゃぎ、わざとらしく明るい声で空気を緩和しようという努力らしいが、ヤバネとマナに一斉に白い目で見られてしまった。因みに現在、赤丸と紅丸はベッドの上でじゃれあっている。微笑ましいことだ。
「あ、……それははじめが持ってきたものだよ。この羊羹はテンテンさんとリーさんからで、あそこに転がってる錘はガイさんから。で、あっちのミント味兵糧丸はハッカ先生」
「……ハッカ先生ェ……名前がハッカだからって無理に兵糧丸をミント味にしなくても……」
キバの明るい声に少しばかり躊躇ってからユヅルが遠慮がちに言う。ミント味兵糧丸と言う単語にキバが呆れた(引いた)ような顔つきになった。
それから数分の間続いた沈黙の末に、ヤバネが口を開いた。
「あんね、あたしまだ仕事あっから。ごめんね、あたし、帰る」
どうやらヤバネとユヅルの間にある溝も埋まったわけではないらしい。それは当たり前だろう――ヤジリとユヅルの溝ほどではないが、ヤバネとユヅルの間にも溝がないわけではないのだ。ヤバネはユヅルに羨ましがられて死んでしまうことを恐れ、そして距離を置いていたことに違いはない。ヤジリのようにユヅルに強くあたらずとも、ユヅルを恐れる気持ちはあったはずだ。
「うん……わかった。頑張ってね」
ユヅルが長い白髪を揺らして笑うと、短い白髪を揺らしてヤバネは踵を返す。
見詰め合った赤い瞳の中に何があったのかは、マナには読み取れなかった。
九班になってからわかったのは、家族といえど皆が仲良しではいられないということだ。血の繋がりをもつ実の家族の間にも溝が出来てしまうということだ。疫病神と詰られたユヅル、ヒトツの姫になることを強いられたはじめ。その中にマナが羨んだような親子の情だとかそんなものは一切見受けられない、けれど。
その中に愛がないとは言い切れない。
やや気まずくなった空気の中、キバは赤丸を抱き上げた。
「ごめん、俺ももうそろそろ帰らねえと母ちゃんにどやされる」
「うん、キバもわざわざありがとう」
「わんっ」
「ばいばーい」
ユヅル、紅丸とマナに見送られて、キバと赤丸が病室を後にする。ユヅルが羊羹を薦めてきたので遠慮なく食べ始めた。病室の中でマナが羊羹を食べる音が
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