XI
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合っている。
「――――悪かった。少し、頭に血が上り過ぎてた。オーライ、もう落ち着いたよ」
顔から手が外される、そこにあったのは何時もの軽薄な表情だった。
裏瀬くんは謝意を述べた後、部屋にあった薬箱のようなものを手に応急処置を施し始める。
ものの数分ほどで処置は終わり、先輩の手には包帯が巻かれていた。
「応急処置だ。後で病院に行った方がいい」
「ああ。だがそれよりも何よりも優先すべきことがある。君の止血が的確だから死にはしまい」
「剛毅な女だ……悪い、俺はちょっとアンタ見縊ってたらしいわ」
「いや、それも仕方のないことだ。私は――バーテンの彼や君が言うように、色々と驕っていたらしい」
「アイツ……余計なことを……」
口ではそう言いつつも裏瀬くんは少し嬉しそうだった。
彼とバーテンさんの間には確かな信頼関係があるようだ。
「ああそうだ、罪悪感……葛藤、そんなものをする資格など私にはないのにな……」
「桐条?」
「いや、何でもない。それより詳しい話を詰めよう。とりあえず彼らを隔離出来ないか?」
「分かった」
桐条先輩の言葉で江古田の顔が喜色に染まる。
だが、
「何かを勘違いしているようだな江古田教諭。先程言っただろう? 下衆、とな」
桐条先輩の氷のように冷たい声が響き渡る。
「森山、彼女がやったことは許されざるものなのは確かだ。
何せ人の命を遊びで害そうとしたのだからな。そんなつもりはなかった? だが結果はこうだ。
結果は総てに優先する。そして江古田、貴様もだ。貴様のくだらない保身が山岸風花の身を危ういものにさせた」
時は待たない、時は平等なのだ。
江古田のくだらない誤魔化しがなければ……そんなIFを考えてしまうのは仕方ない。
だって私達は人間だから――悔やんでしまうのだ。
「裏瀬の処置はやり過ぎだが、かと言って非が貴様にないかと言えば否だ。
命は助けよう。だが口を噤め。もし山岸に何かあれば私は貴様を消すことに何の躊躇いもない」
その言葉に江古田の顔が蒼白を通り越して死人のそれに変わる。
…………先輩の中でどんな意識の変革があったかは分からない。
けど、裏瀬くんとのやり取りで何かが変わった――――正に氷の女帝。
「仮に助かった――いや、山岸は恐らく得難い人材だ。必ず助ける我らがな。
が、それでも貴様に何の咎もなしと言えるほど私は優しくはない。桐条の圧力を使い、二度と教壇に立てないようにしてやろう」
「ま、待ってくれ! な、何もそこまで……」
「黙れ! 教職の本分を忘れ保身に走った人間を許せるほど私は寛容ではない」
桐条先輩の大喝破、裏瀬くんの炎のような苛烈さはない。
彼女のそれは凍てつく氷獄のごとき冷たさ
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