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悪霊と付き合って3年が経ったので結婚を考えてます
1年目

冬B*Part 2*〜氷のように温かな〜
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の目を見つめてきた。

「あの人もね、心のどこかで気づいていたんだと思う。自分の才能では音楽でやっていくのは無理だ、って。だけど、あの人は夢を諦めきれずにいたの。でもそんな時、私のお腹の中には既に命が宿っていたのよ」

「……それが、あたし」

お袋は何も言わずあたしの言葉に頷くと続けて言葉を紡いでいく。

「それからは大変だったわ。私もあの人もまだ二十歳(はたち)だったから。お互いの両親からはすごく叱られた。それでも私たちはあなたを手放したくなかったの。あの人は私たちを養っていく力を付けるために、ご両親に何度も頭を下げてその時通っていた大学から医学部へ入りなおしたのよ。それはもう、死に物狂いで勉強してたわ」

そう言ってお袋はクスクスと笑った。

「あなたを産んでからは、あの人のご両親にも手伝ってもらいながらあなたを一生懸命育てたわ。それから7年経って、あの人も無事に医学部を卒業した。でも、その後、私たちは海外へ研修に行かなくちゃいけなくなったの。その時預けたのが私の両親のところ、尼崎君の故郷だったのよ」

 それを聞いてどうしてあたしが小さい頃、親父にもお袋にもなかなか会えなかったのかを理解した。
幼いころの記憶はうっすらあるが、田舎のあたしのところを訪れる親父やお袋は少し滞在するとすぐにいなくなってしまっていた。あたしはそのたびに寂しくなり、親父やお袋はあたしのことが嫌いなんじゃないか、と言って爺ちゃんや婆ちゃんを困らせてしまっていた。

「その時は本当にごめんなさいね。あの人一人で行かせるわけにもいかないし、あなたを連れて行っても忙しい私たちの身ではあなたの世話は出来ない。私たちも苦渋の決断だったのよ」

 そう言ってお袋はあたしに向かって深々と頭を下げた。
そんなお袋を見たのは初めてだったのものあり、あたしは動揺しながらも“気にしてない”と言って両手をぶんぶんと横に振った。

「それから9年経って、あの人の仕事もやっと落ち着き始めたのをきっかけにあなたをまた私たちの元へ迎え入れたの。あの人は医師の才能のほうがあったのね、その頃にはあの人のご両親の病院も受け継いで立派な医師になっていたわ」

 そんなお袋の話にあたしは始終聞き入ってしまっていた。
親父やお袋があたしのことをどれだけ思ってくれていたのか、どんな気持ちであたしがバンドをやることを否定していたのか。
それを考えると胸が熱くなってくるのを感じた。
そんなあたしの目からは自然と涙が零れていた。

「愛華、あなたには才能がある。誰に似たのか、音楽の才能が。あの人もそれはわかっているの。でも、恐れているのよ。大切なあなたが私たちみたいに大変な思いをしてしまうんじゃないか、って、いつか音楽の道を選んだことを後悔するんじゃないか、って」


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