九話 「小さな一歩」
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「なら、前に立とうと思わないのか」
「「いけー!」って叫んでみんなを連れて動きたい時はあるよ。でも、思い浮かべてすぐ自分で笑っちゃう。一回死んじゃうくらいにならないと治んないんじゃないかな」
死んじゃうくらい、か。バカは死んでも治らないっていうけどどんなもんなんだろうな。
「だからイタズラはちょっとやだけど、みんなで「バカやる」その中にいてウキウキして、そのみんなを見るのが楽しい」
「そうか」
まあ、人間色々あるわな。
正しく「バカ」やってるカジ少年たちを見て楽しそうに少女は笑う。
「でさ、何も描かないのイツキくん? カジくんやハリマくんたちいろいろ描いてるよ」
改めて少女が聞いてくる。楽しげだ。
……俺が落描きする、ってのも「バカやる」ってことなのかね。後、カジ少年たちと比べないで欲しい。
だが、やはり手は動かない。自分から描くなんて荷が重い。
「……何か描いて欲しいものあるか」
「何でもいいの?」
「描けるものならな」
少女が考え込む。
「なら一番得意なの描いてよ。よく描いたものとか」
「……分かったよ」
少し、躊躇う。
だがさきほど話を聞いた手前こっちだけ無視するのも虫が悪い。絵のリクエストをしたのもこっちだ。
筆を付ける瞬間、一瞬止まる。けれど躊躇いがちに筆を走らせていく。
「……」
何かを言う気にもなれず心を抑える様に黙って筆を走らせる。
ためらいがちだった筆は見えない何かに追われるように戸惑いをなくしていく。
「山? これって、風景?」
「ああ」
並ぶ山々。覆う緑。浮かぶ雲。漂う霧。足元の土。並ぶ家。
黒一色で輪郭をなぞるように描いていく。
「上手いね。絵、得意なの? これ何処?」
「家から見えた風景。昔、よく描いた」
「好きなんだ。ずっと描いてるの?」
「いや、父親が絵を描くのが好きだった。家の中で小さな画集を見つけてさ。昔描いたっていう絵があった。職業柄だったのかもな。真似して描くと嬉しそうでさ、何度も描いたよ」
そう。何度も、何度も。狂うほどに。
そしたらいつの間にか多少は絵が見れるものになった。繰り返したこの風景は見なくとも描けるようになった。
「お父さんの真似したんだね。親子だからかな。家もだけど、昔やったこととか、そういう事すると喜んでくれるよね」
(――――ッ)
その言葉に少し、頭痛が走る。
だが絵を見てこっちに視線を向けていない少女にバレないように腕を動かし続ける。
「まあ、そうなんだろうな」
気取られないように無難に返す。
「イツキくんのお父さんって、確か仕入れとかのお仕事してるんだよね。あと、こんな風景あったっけ?」
「それは違
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