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弱者の足掻き
九話 「小さな一歩」
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ね」

 「いいのかな……」などと呟く少女とともにカジ達の後をついていく。勿論白もいる。
 そう言えばカジ少年は白に聞かなかったな。何か遠慮でもしたのかね。
 


 池ジジイの家に付いて軽く伸びをする。
 家、と言っても家屋ではない。庭を区切る塀の前にいる。

「ふむ」

軽く触る。うむ、良い壁だ。デコボコが少なくて落書きしやすそうな壁である。
 
「○×ゲームしようぜ!」
「……」
「にひひひひひ」

 壁で○×ゲームする奴。無心でハゲ頭描く奴。手に色つけてひたすら手形押していくやつ。
 カジ少年たちは見事なまでに好き勝手にしている。どうでも良くはないが、反対側の壁にまで描きだしそうだなこいつら。

 そんな奴らを横目に見つつ俺も筆を出す。筆につけるのはかなり水で薄めた墨。いざとなれば自分のだけ水で洗い流して証拠隠滅して逃げよう責任フッかぶせてやる、と思いつつ筆を持つ。
 だが、何も思い浮かばない。
 白は俺と同じく薄めた墨をつけた筆を持っている。だが、持っているだけで何も描こうとしていない。まあ、こいつは元々そういう奴だ。

「……そっちは何も描かないのか?」

 どうしても手が動かずつい近くの少女に声をかける。彼女も佇むだけで何もしていない。

「私?」
「ああ。何もしてないだろ」
「それはイツキくんも同じだよ」

 まあ、それはそうだ。
 バツの悪そうな俺を見て、ふふ、と少女は楽しそうに笑う。
 そもそも思い返せば俺は余りこの少女と話したこと記憶がない。集まってともに遊ぶことはあったがこうして直に話したことなどあっただろうか。

「そもそも何で参加したんだ? こんなイタズラ好きじゃないんだろ」

 落描きをする、と決まった時の反応からすればそうのはずだ。
 その問いに少女は少し困ったような顔を浮かべる。

「イタズラは好きじゃないけど、こういったことは好き、かな」
「こういったこと。って、イタズラだろうに」
「やっぱり変かな?」

 少女が困ったように笑う。だが、どこかその顔は楽しげだ。

「こんな風にさ、みんなで何かするってことが好きなんだ。見てるのが、かもしれないけど」
「……」

 筆も相変わらず動かないので黙って先を促す。

「誰かに引っ張られて、その勢いのまま一緒に何かやったり、どこか行ったり。そんな中に自分がいるのが好きなんだ。私はさ、みんなを引っ張ることなんて怖くて出来ないから」
「皆でバカやるのが好きってことか?」
「バカって……ヒドいなもう。まあ、合ってるんだけどさ。誰かを引っ張る人だったり、みんなが慌てる中で前に立てる人だったり。そんな人が憧れなの。その“誰か”の中になりたいし、“みんな”に入れて引っ張って欲しい、かな」
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