第七話 〜花言葉 〜Language of flowers〜 -花葬-【暁 Ver】
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────── 廃墟に響き渡る悲鳴
プロレスラーのように屈強な男と、身長が170を少し超える程度の男。だが……どちらが追い詰められているのかは、火を見るよりも明らかだった。屈強な男が暗闇からするりと出てきた黒い男を、恐怖を浮かべた瞳で見る。温和な表情を浮かべた顔には、小さな丸眼鏡を鼻筋に乗せるように掛けている。屈強な男には、その人畜無害な風貌が却って恐ろしかった。
インナー。レザージャケット。ジーンズ。エンジニアブーツ。何も彼もが、黒い。唯一、ブーツに使われているシューレースだけが、夜に紅く浮かんでいた。黒い男は何の躊躇いもない足取りで、屈強な男へと近づいていく。
「折れた右足で良くそこまで動けますね? 感心しますよ」
追い詰められた屈強な男はこれを狙っていた。どうやったかは理解できないが、数メートル先から一瞬で足を折られた。まともに戦うのは不利。ならば、追い詰められた振りをして相手の油断を誘う。自分は魔法を使えない。だが魔法よりも手軽に、簡単に人を殺せるものを持っている。屈強な男は、黒い男が近づくのを見計らって懐から──── 鈍色に輝く『それ』を抜いた。
廃墟の路地に響き渡る乾いた発砲音と、マズルフラッシュ。屈強な男は壊れた玩具のように弾倉が空になるまでトリガーを引いた。黒い男は身体に弾丸を受ける度に、よろけるように後ろへと踏鞴を踏む。だが、黒い男は何事もなかったように……屈強な男へ視線を向けた。呆然とした男の視線に気づくと相変わらず温和な表情で言葉を投げる。
「とても痛いですよ……痛くないわけがありません。ですが、意味がないことも確かです。もう一度試してみますか?」
傷口が……いや、血すら一滴も流れていないものを傷口とは呼ばないだろう。凶悪な鉛の弾丸によって開けられた穴は、瞬時に塞がっていく。屈強な男の口から思ったままの単語が零れ落ちた。それは、古来から『人』ではないものを指す言葉──── 化け物。
「……構いませんよ。あの娘さえ『違う』と言ってくれる限り、私は誰に何を言われようとね」
いつだったか、妹が言ってくれた言葉。何もかもが、普通と違ってしまった彼に向けられた、なんの飾り気もなく……妹らしい真っ直ぐな言葉。だからこそ、彼ははそれを否定してはいけないのだ。妹の言葉が嘘にならないように。妹が嘘つきにならないように。……嘘つきは、自分だけで十分なのだから。
「私は人間ですよ、ちょっと変わってますが」
屈強な男は我に返ると同時に、手に持った『それ』投げ捨てナイフを取り出すが、生木がへし折れるような音と共に肘を逆側へ曲げられた。声にならない悲鳴を上げ、その場へ蹲る。
「『妹』の泣き声
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