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東方虚空伝
第二章   [ 神 鳴 ]
二十二話 会戦の狼煙
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うん?あぁ何でもちょっと前に諏訪が召抱えた人間の倒魔士らしいぞ。この辺りじゃ結構有名らしいな」

「なんだ人間か、厄介な神かと思ったじゃないか」

 人間と聞いて神奈子は興味を無くした。どれ程の力を持ったとしても所詮は人間、脅威にはならないと判断したからだ。

「人間らしいんだが名前が興味深くてな、姉貴聞いて驚け…七枷虚空だってよ」

 その名前を聞いた天照が少しだけ驚きの表情を見せた。

「なんとまぁ分不相応な名を名乗ったものですね」

「天照様、その名に何かあるんですか?」

 神奈子は興味半分、疑問半分で聞いてみる。

「七枷虚空というのは私達の故郷である月の英雄の名です。貴方は地上生まれですから知らないのも無理ありませ」

「俺にとっちゃ憧れの人物だ。親父や師匠とかからいろいろ聞かされたしな」

「まぁ偶然同じ名を持つ者がいただけでしょうが。それよりも神奈子、戦の事くれぐれも油断無き様に」

 天照は話題を打ち切り神奈子に念を押す。

「お任せください天照様、必ずや大和に勝利を」





□   ■   □   ■   □   ■   □   ■   □   ■





 何時もの様に天に輝く月を眺める。しかし今日は場所が違った。都から離れた森の中。そこに諏訪の軍の陣を敷いていた。
 少し先には大きな河が流れておりそこが諏訪の軍と大和の軍を別ける境界線になっている。視線を向ければ小さな明かりが幾つも見える。
 作戦の詳細の説明などの軍義も終わり一人夜風に当たる事にしたのだ。そんな僕の近くにスキマが開き紫が顔を覗かせた。

「寝ないのお父様?明日に響くわよ?」

「寝ずの番は慣れてるから大丈夫だよ、でも紫は寝なさい」

 僕の言った事が不満なのか紫は頬を膨らませスキマの中に引っ込み閉じてしまう。次の瞬間いきなり僕の上に落ちてきた。それをなんとか抱きとめる。

「っと!危ないなもう」

「私ここで寝るから。おやすみなさいお父様」

 紫はそう言うと僕の服を握り締め狸寝入りを始めた。まぁいいか。紫の頭を撫でながら明日の戦の事を考える。
 考えられるだけの状況は想定した、打てるだけの手は打った、でも絶対は無い。そもそも、もしかしたら途中で自分が死ぬかもしれない。僕は不死身でも無敵でもないんだから。
 まぁ仮定の話を考えてもしょうがないか。やれる事をやるしかないんだ。そんな事に思考を巡らせていたら何時の間にか紫が本当に眠っていた。
 ここで僕の寝ずの番に付き合わせる訳にもいかないので紫を抱え宿舎の方に向かう。
 泣いても笑っても明日決まるんだ。きっと皆も不安を抱えながら過ごしているのだろう。
 そして夜は更けていった。
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