第三章:蒼天は黄巾を平らげること その3
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習性なのだろうか。いや、余りある戦意が彼女を無謀にさせただけであろう。馬は走り続けている限りにおいては戦場で無敵となる存在であるが、その絶対的な前提が崩されれば騎手は唯の大きな的と化す。
助けになるといいながら助けになられる立場になる彼女にほとほと呆れ帰るが、しかし彼女を助ける決断をする。ここで助けなければ戦況が悪化する恐れがあったからだ。
「場所を教えろ!!救援に向かうぞ!!」
「了解です!私が先導いたします!!!」
勇敢な彼を尊重して騎馬隊の先頭を執らせた。血に滾った曹洪は「やぁっ」と声を上げて馬に鞭打つ。敵を最小限のみ相手にして邁進する姿は、騎馬隊の先達である夏候惇が教授した通りの姿であった。
頼もしくなる戦友に笑みを零して、仁ノ助は戦場に卑しい血を注ごうと凶刃を振るっていく。彼に続く騎馬隊の兵達も同様であり、戦いは更に凄惨さを増していった。
ーーー孫堅の視点にてーーー
金属をすり合わせたような声のような悲鳴を出して男が倒れる。腹から左胸を深い裂傷が走っており、肉片がべちゃりと撒き散らされていた。何とも悲しい光景であるが、しかしこの男が先ほどまで立っていた空間では、斬る斃す、そして血を流すなどは何ら不思議な事では無かった。たとえその果てに命を失くしたとしても。
それを象徴するかのような殺戮が、三人の女性により延々と繰り返されていた。少し長めの両刃剣をあたかも棒切れでも扱うように軽々と振るうのは、孫伯符。見事な徒手格闘で相手をいなしながら構えていた両刃剣、南海覇王を恐ろしい速さで振るうのは孫文台。その二人を支援するため長弓に二本の矢を番えては放ち、番えては放ちを繰り返す黄公覆。朱儁将軍の配下として参軍していた孫堅を支えるため、彼女の忠実な配下は死地へと飛び込み、一方で顔に余裕の色を浮かべてこの難局を切り抜けようとしていた。
「母様もこんな雑魚共相手に無理をするわよね。普通にいなしていれば、こんな奥地にまで突撃する事も無かったでしょうに」
「ふむ、雪蓮の言うことにも理があるな。今回の攻撃はどこか急いたものを感じた。何かあったのか、嵩蓮?」
目敏くも射手を狙ってくる賊をひらりとかわし、その頸に矢を突き刺すと素早く抜き、鏃(やじり)が血脂で鈍らないうちに最小限の動きでこれを放つ。この一連の動作を澱み無くやりながら黄蓋は問う。これに対して真名を呼ばれた孫堅は、彼女にしては珍しく自らに恥じ入るような笑みを浮かべていた。
「どうもうこうも、思い出しただけさ。若い日の、夫の顔をな」
「へぇ?亡き父上の顔を思い出しただけでこんなに突っ込むの?さぞかし衝撃的な思い出し方だったんでしょうね?でなければ納得がいかないわよ」
「確かにその通りだ。訳を話してくれ、嵩蓮。今日のぬしは些か精彩を欠いて
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