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空を駆ける姫御子
第四話 〜アスナが勧誘されるお話 後編【暁 Ver】
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を引き戻した。

『……前から聞こうと思っていたんだが。桐生はなぜ『能力』を使わないんだい?』

「使っているじゃないですか」

『テレビのリモコンを使ったり、工具を取ったりしているのは良く見かけるよ。……手も使わずにね。私が言いたいのはそう言う事ではなく……』

 今度は言い淀むことなく、それが信念であるかのように告げる。

「必要がないからです。たとえ私が、この『世界』の事を知っていたとしても積極的に自分からは関わろうとは思わなかったでしょうね。どんな『力』を持っていても救えない人は救えない。その世界の未来を知っていたとしても然程役には立たず、それどころか碌な結果にしかならない。それを私は学びました。もっとも、私が未熟なだけだったかもしれませんが。いえ、恐らくそうでしょう。だから、私は決めたんですよ。愛するアスナ()の為だけに『力』を振るうと」

『…………』

「……何ですか? 恥ずかしい事を言いましたよ? 笑いたければ笑いなさい」

『いや、アスナが見ている』

 桐生が硬直する。やがて絡繰り人形のような動きで振り返ると──── 工房のドアが開いており、アスナがじっと桐生を見つめている。……茹で蛸も裸足で逃げ出すくらいに顔を真っ赤にして。そのままアスナは何も言わず、くるりと踵を返すとリビングへと続く階段を登って行った。途中で足を踏み外す音が聞こえる。

『アスナの心拍数の大幅な上昇を確認。呼吸も』

「教えなくていいです。……さぁ、明日は例の来客もある事ですし、仕上げてしまいましょう。サポートお願いしますよ。『ボブ』」

 ボブと呼ばれた『彼』は忍び笑いをしながらも力強く答えた。

『了解したよ、桐生』






──── あぁ、今日は青空が綺麗ね。見て? あの雲、アスナに似てる。

「ティア? 現実を見て」

 親友に『現実を見ろ』などと言われてしまったら見るしかない。抗議を込めた眼差しで黒いスポーツカータイプの車をバックにチェシャ猫のような笑みを浮かべている八神部隊長を見た。その笑顔を見ていると衝動的に殴りたくなってくるが、そんな事をしてしまったら始末書どころの騒ぎではなくなるので我慢することにする。取り敢えず、拳を振るう代わりに無難な疑問をぶつけてみることにしましょう。

「これ、八神部隊長のお車ですか?」

「ん? いや、フェイトちゃんの車や」

 昨日訓練場に飛び込んできたちっさい部隊長は、訓練中だったあたしとスバルをつかまえて開口一番、「アスナちゃん説得するの手伝て!」と叫んだ。そう、文字通り叫んだのだ、この人は。訓練の途中で乱入されたなのはさんの顔がちょっと怖いことになっていたが、当の本人は何処吹く風で。図らずもあたしの嫌な予感が当たったわけだ。
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