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空を駆ける姫御子
第四話 〜アスナが勧誘されるお話 後編【暁 Ver】
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────── いいですか、アスナ。頭が禿げている人にハゲと言ってはいけません






 一人の男が少しばかり乱暴な足音を響かせながら階段を下りてきた。年齢は二十代後半から三十代前半だろうか。東洋人と思われる黒髪に人好きのする風貌をしてはいるが、それ自体に特筆するものはない。少々小さめの丸眼鏡を鼻先へ乗せるように掛けており、歩いていると怪しげな勧誘や道に迷った外国人に良く声をかけられる……そんなタイプだ。後頭部の寝癖も減点だろう。

 男は『工房』にある椅子へ不機嫌そうに腰を下ろした。机の上に何の法則性もなく雑多に置かれた機材をかき分け、煙草の箱を見つけると、一本を咥え燐寸で火をつける。

『誰からだったんだい? 桐生』

 作業用デスクにある端末から、若い男性を思わせる声が寝癖の男へと問いかける。桐生と呼ばれた寝癖の男は紫煙を吐き出しながら、面倒臭げに答えた。

「……管理局の『八神はやて』と名乗る方から連絡がありまして。詳細はまだわかりませんが、新設した部隊にアスナが欲しいとの事みたいですね。明日、こちらへ来るそうです」

『それはまた、随分と急だな。反対かい?』

 そう問われた桐生は言い淀んでいたが、諦めたように口を開く。

「それは……そうです。訓練校を卒業すると同時に戻って来てくれて、もうアスナが危ない事をしなくて済むと安心していたところに──── これですからね。頭が痛いです」

 桐生は煙草を深く吸い込み溜息と共に紫煙を吐き出した。

『アスナは強いよ。知っているだろう?』

「勿論、知っていますよ。私など目で追うのが精一杯ですからね。『師』が良かったんですね」

────── あの世界の出身ですしね。

 桐生はもう『昔』と言っても差し支えないであろう、あの『世界』にいたときのことを思い出していた。一個人が戦艦を次々と沈め、滝を割り、致死レベルの攻撃を受けても死なず、明らかに致命傷であるにも拘わらず、何かの補正がかかっているとしか思えない回復力……あの世界の出鱈目さを挙げていたらきりがない。『魔力』や『気』という力は決して万能ではないのだ。だが、あの世界ではどんなに考えても理解出来ない事象が当たり前に起きていた。

 それを考えると、この世界はまだマシだ、と桐生は考えた。桐生はそんな自分に苦笑する。昔のことを懐かしむほど年齢を重ねてはいないつもりでいたが、いつの間にか『以前』と同じ年齢になっていた。考えてみれば、あの当時の『身体年齢』は十二。あれから──── 二十年ほど経っている。アスナのような少女から見れば十分『おじさん』である。アスナからある日突然『おじさん』などと呼ばれたら、どんな顔をしたら良いのだろうと益体もないことを考えていると、『若い男』の声が桐生の意識
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