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黄昏アバンチュール
始まった練習
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くらい重要だ。

「お、落ちる…」溝口さん足がずりずりとさがりはじめた。
「あと十秒、足抑えてあげるから、がんばっ」
そういって、足を上に引き上げてあげる。
「はい、一分半終わりっ」
隣で篠宮くんが滑り落ちた。
「…大丈夫?」
「なんとか」といって微笑んだ。やはり、男子の方が筋肉も体力もある。

「じゃあ、休憩したら床はいろっか。男子は…男子に聞いて」
「「はい」」


「これから床入ります、礼」
器具に向かって挨拶をする。体操は意外とそういう礼儀を重んじる競技なのだ。
「今日なにしたい?…今までの感じだと、倒立前転と、側面かな?」
溝口さんはふたつともなんとかできているが、それだけではだめなのだ。平均台の上でやることを前提にして床での練習をするので、側転も、倒立前転も線に沿ってまっすぐしないとだめなのだ。
「手、遠くにつくんだよー」
横で時々補助をしながら自分の練習も同時に行う。
今日は床しか出していないので、やることも限られてくる。
とりあえずロンダートをしてから、ロンバク、ロン宙をしてからトランポリンに移動した。ロンバクはロンダートにバク転をつなげる。ロン宙は宙返りをつなげるのだ。最近は前宙ハーフを練習しているのだが、やはり捻りをやるのは今までと別種の怖さがある。
前宙など一瞬体が浮いているような変な感覚になってしまうのだ。

ふと隣をみると溝口さんが倒れていた。
「大丈夫?」
「疲れました…」おでこからは汗が流れ落ちている。まだ、夏らしい夏はきていない。
「疲れたら、水のんで休憩してきなよ、あ、でもその前に一回みして?できるようになった?」
「おー、だいぶうまくなったね」
「倒立がとまらないんです…」
「あー、それはね、手が近すぎるのと、勢いが強すぎなんだよ。背中から落ちるのはそのせい。あと、腰硬いのもあるかもね」
「わかりました。やってみます!」
溝口さんは真面目だしいい子だ。きっとすぐに上手くなるだろう。
そんなたどたどしい背中をみながら、自分が体操を始めた頃を思い出していた。



「いーやーなーのっ、まだ帰らないんだからっ」
練習したい、体操をやりたい、と純粋に思っていた自分が懐かしい。
あの頃はまだ、母親だって優しかった。私に優しくできるくらいの余裕だってあったのだ。

いつからこうなってしまったんだろう…どこで、狂ってしまったのだろう



「…」
「…ぱい」
「せんぱいっ」

「あ、ごめん、ぼーっとしてた…」
「もう片付け始まってますよ?」
「ん、やる」


「なんか、今日は放課後練行きたくないなー…、一人で帰りたい。沙耶…ごめんね」
そう心の中で謝りながら沙耶にメールを打った。
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