第二話 〜始まる前のお話 後編【暁 Ver】
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──────── 御互いに譲れない物があるんだから、殴り合うしかないだろ?
この世界に彼が来てから一年ほど経過していた。『紅き翼』と名乗るメンバーと出会い行動を共にするようになり『大戦』と呼ばれる戦争に参加した。血の臭いが途絶えることのない戦場。紅き翼のメンバーが、息をするように。食事をするように。それが『当然』だと言うように敵を屠っていく中。
彼は──── 桐生は酷く疲弊していた。
当たり前の話である。転生前は掛け値なしの一般人だった。戦争はおろか成人してから喧嘩すらした事はない。元々争いごとが苦手なのだ。
転生前に『彼女』からこの世界の状況を聞いたとき、真っ先にお願いしたのは『精神の強化』だった。自分の意志で戦争に参加するにしろ、しないにしろ保険をかけておくに越したことはない。戦場ストレスに陥るのは避けたかったし、血や遺体を見る度に気分が悪くなっていては、とてもやっていけない。
それでもストレスは溜まる。初めて戦場に出て『能力』を使ったときは手足が震えた。自分を殺そうとする敵軍の兵士であっても殺さないように『力』を振るった。彼の常識では殺人は犯罪である。『戦争だから人を殺してもかまわない』という図式は彼の中では成り立たなかった。
彼は正しく──── 臆病者だった。
戦うのにも慣れてきた頃──── 彼は今も戦場に立っていた。東洋人を思わせる黒髪。鼻先に乗せるように掛けられている小さな丸眼鏡。黒のタートルネックのセーターに黒のジーンズ。血のように紅い靴紐が結ばれた黒のスニーカーを履き、黒のハーフコートを羽織っている。華々しく戦場を駆け抜け、英雄の如き活躍をみせる『紅き翼』の中で彼は異質な存在であった。
今も何をするでもなく、ただ立っている。武器を持っているわけでもなく魔法を使うわけでもない。にも係わらず、彼を取り囲んでいる兵士は動けなかった。そんな状況に焦れた一人の兵士が剣を構え彼に襲いかかる。
人体から決して聞こえてはいけない音と共に兵士は短い悲鳴をあげると、その場に倒れ込んだ。彼を取り囲んでいた兵士が一斉に倒れた兵士を見る──── 膝から下が、あり得ない方向に曲がっていた。彼は指一本動かしてはいない。彼と戦場で会ってしまった人間は悉く、理解が及ばない恐怖を味わうことになる。
一瞬で兵士達が恐慌状態に陥った。逃げ出す者、向かってくる者。向かってくる者は彼に触れることなく武器を、腕を、足を一瞬で折られ例外なく地に伏していった。彼は一歩も動いていないどころか指一つ動かしてはいない。ただ──── 『視る』だけだ。ならばと、死角から襲いかかっても背中に目があるかの如く結果は同じだった。
やがて向かってくる兵士がいなくなった頃、
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