暁 〜小説投稿サイト〜
悪霊と付き合って3年が経ったので結婚を考えてます
1年目

冬@〜恩と音〜
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さいませ、お嬢様。今日は遅かったですね」

ボイストレーニング教室に通っていることはだれにも話していない。言えばやめさせられるのは目に見えているからだ。

「バイトだったんだよ。それと、お嬢様はやめてくれ、って言ってんだろ、高尾さん。ガラじゃねぇって」

それはできませんわ、と高尾さんはおっとりとした表情で頬に手を当て、ふふっと微笑んでみせた。
高尾さんはいつもこんな調子だ。下手したら親父よりも強情なのかもな。
そんなことを考えながら、はぁ、とため息をつき、あたしは自分の部屋へ向かおうと階段へと足をかける。そこで、あることを思い出し振り返った。

「今日、親父は?」

「旦那様は本日病院での会合があるとお聞きしております。奥さまはご自身のお部屋にいらっしゃるようですが、お呼びいたしましょうか?」

「いや、いいよ…」

 師走って言うほどだ。この時期病院が忙しいのはわかりきっていたじゃないか。

「……、お嬢様。何かあるのでしたら私でよければ相談に乗りますからね……?」

何かを察したかのように心配した表情を浮かべ、あたしを見つめる瞳に少しドキッとする。

「い、いや、大丈夫だよ。いつもありがとう、高尾さん」

そう言いながら体を再び階段の方へ向けると、ほの暗い2階へ向けて足を踏みしめた。



 うちは格段家族の仲が悪いわけではない。むしろあたしはとても過保護に育ってきた。見た目通りに頑固なところはあるが、親父はあたしのために必要なものなら何でもそろえてくれるし、お袋は優しそうな垂れ目とは裏腹に、少しケチなとこがたまに傷なだけで、あたしの女性特有の悩みなどもいつも真剣に聞いてくれる。
 たまに家政婦さんが来ない日、あたしが料理を作ると二人とも満面の笑みで“美味しい”と言いながら食べてくれ、あたしはその二人の笑顔を見るのが大好きだった。
 そんな家族だからこそ、期待は裏切れない。
歌手になりたいなんて言い出せるはずがない。
もし言ってしまえばそんな二人の笑顔が見られなくなるのではないか、と怖くて仕方なかった。

 そんなことを考えながら自分の部屋へ入るとそのままベッドへと倒れ込んだ。そして、ベッドの上に一つだけ置いてあるお気に入りの少し大きなペンギンのぬいぐるみを手に取り、両手で自分の体の上へと持ち上げる。

「なぁ、お前はどうしたらいいと思う…?」

そう言うとあたしはそのぬいぐるみを強く抱きかかえた。











―――愛華!!!

 下から呼ぶ声にあたしは飛び起きた。ベッドに倒れ込んだままあたしは寝てしまっていたらしい。
今の声は、親父…?
親父からあたしを呼び出すなんて珍しいこともあるもんだ。
そう思いながら、すぐ行く、とだけ返事を
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