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木ノ葉の里の大食い少女
第一部
第一章 純粋すぎるのもまた罪。
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せんべいをバリバリ食うマナに呼びかけると、むすっとした顔で彼女は振り返った。わん、と紅丸が鳴いて、彼女の両足の間に収まる。

「貴様、そう拗ねるな……」

 ただっぴろい丘に胡坐をかくマナに苦笑しながら、ハッカがその傍に腰を下ろす。続いて、はじめもユヅルも腰を下ろした。はじめは無表情で、ユヅルはちょっとだけ怯えているようだった。

「拗ねてねーです。怒ってるだけです」
「……そうか?」
「はいそうです」

 拗ねてるようにしか見えないぞ、とハッカは苦笑いをした。あんたらなんかにわかるもんか、と思いながらマナはぶすっとして自分の手のひらを見つめる。正確には、そこに浮かぶ血管を。
 自分の思い描いた「家族」と、はじめとユヅルの持つ「家族」は余りに程遠いものだった。ずっと憧れてきた「家族」に対する羨望を、憧憬を、全部裏切られてしまったような気がした。裏切られたなんて、そんなのマナが勝手に夢を見て勝手に理想して、そして勝手に幻滅していただけなのに。
 暫くの沈黙の後に、ユヅルが口を開いた。

「皆に知ってもらいたいことがある」

 皆に知らせるのも、知ってもらいたいのも、知ってもらうのも、全部俺のエゴだけど。
 それがチームワークを乱してしまうかもしれないけど。
 自分勝手だけど、でも皆に知ってほしいの。
 一人で抱えるのに、その秘密は大きすぎたから。

「俺が一瞬でも羨ましいと思った人は風邪をひく。何度も羨ましいと思った人は病気にかかる。一年も二年も羨ましいと思って妬んだ人は、――死んじゃうか、持ってるものを失う」

 はじめが眉の根に皺を寄せ、ハッカは片眉を持ち上げた。ユヅルの妹であるヤバネからそのことを聞いていたマナだけが静かにその言葉を聞いている。
 自分を締め殺そうとした母。頭がいいと背が高いと、力持ちだと友達が多いと、そう羨み、妬んだ四人の兄。長い髪が綺麗と誰にも愛されていると、羨み妬んだ、二人の姉。自分を疫病神と散々詰った父は、村一番に力持ちで頭のよかった父は、病にかかってしまった。家には医者に見てもらうためのお金もなく、今は双子の妹がその田を耕している。

「ごめんね。引くでしょ。引くよね。あ、あの、羨ましいって、出来るだけ思わないようにしてるんだ。自分の持ってるものを大切にしようってさ。ごめん。――ごめん」
「……いやさ、なんであんたが謝ってんの?」

 こんな力を、ユヅルは望んで手に入れたわけじゃないはずだ。
 兄や姉や母の死が、父の病が彼の所為だったとしても、それは彼が望んだ力じゃないはずだ。
 他の人を全く羨まず妬まず、自分のもつものだけを見て幸せに感じられるほど高潔な人間は滅多にいないだろう。きっと誰しも他人の何かを羨んだり妬んだりするものだ。ユヅルの場合、そんな当たり前の想いが
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