第一部
第一章 純粋すぎるのもまた罪。
1−3
[7/10]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
した綿をそこにつけた。叫び声を上げることこそ必死に我慢しているはじめだが、呼吸はどんどん荒くなり、体の震えは大きくなるばかりだ。その召使いにしがみ付いたまま身を捩る。
「今回は焼いたクナイの刃ですか? 全く、クナイは投擲に使うためのものなのに、初姫さまも困ったお方だ」
呟きながら、召使いはさっさと着物の裾を翻すと、太腿あたりの青アザに布で包んだ氷の塊をあてた。
他にも、足裏には鞭で打たれた痕があったし、膝の裏に出来た傷からは血と組織液とが流れ出ていた。よく頑張りましたね、と一言言って、召使いはようやくはじめを離したかと思うと、はじめをさっさと彼が普段着ている服に着換えさせ、部屋を退出した。そこで部屋に沈黙が降りる。
「――なんでさ、お前らはさ。我慢してんだよ」
はじめの痛々しい傷痕を見て、マナの怒りは爆発寸前だった。
「なんでさ、とーちゃんに疫病神だとか言われても何にも言い返さないんだよ! なんでねーちゃんにあれだけ虐められてもいい子の妹のふりして綺麗な服きて頭下げてんだよ!」
はじめがユヅルを見た。ユヅルは口元を引き結んで俯いている。
「なんでいってやらねえんだよ、俺はお前の息子なんだって、それ以上言ったら呪ってやるぞって! なんで殴り返してやらねえんだよ、なんで逃げださねえんだよ!? それが親子の情ってもんなのか!?」
問うたことがあった。
「お父さんって何」「お母さんって何」「兄弟ってなんなの」。
羨んだことがあった。
両親を。兄弟を。親戚を持つ、他の生徒達を。
夢見たことがあった。
例えば、お料理上手で、怒ると怖いけどやさしいお母さんや。
例えば、いつもは厳しいけど、母親にはデレデレなお父さんだとか。
例えば、一緒にものを取り合ったり喧嘩したりする兄弟だとか。
例えば、マナちゃん大きくなったねって言ってくるおしゃべり好きな親戚のおばさんだとか。
そういうのにずっとずっと憧れていた。
でもこれは違う。こんなのは。こんなのは違う。優しくて一杯の愛をくれるのが家族だと思っていた。そんな家族を夢見ていたのに。でもこれはマナの夢みた家族とは余りに違っていた。
自らの子を疫病神と詰り、弟に女の服を着せて虐待するのが。そしてそれを泣きそうになりながら、泣きながら、叫びたいのも堪えるのが。親子の、情?
こんなの絶対、違う。
「お前らさ、もっとなんか言えよ!」
どうしてされるがままなのだろうか。
どうしてそこまでして耐えるのだろうか。
これが親子の情だなんて、思わない。思えない。
灰色の目と赤い目がそれぞれ自分を見上げている。耐え切れなくなって、マナは一文字家を飛び出た。
+
「マナ」
どこからか盗ってきた
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ