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魔狼の咆哮
第一章その三
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ないか細かい点まで識別できる者は少なかっただろうし今となっては確かめる術は無い。しかしそれでも私は思う。狼ではない、むしろ邪悪な意志を持つ人間かそれによく似た異形の輩が蠢いていた、と。そして今回も」
「・・・異形の輩ですか。俺達はそういったのに本当に縁がありますね」
 本郷はベッドの中で苦笑した。
「それが仕事だから仕方無い」
 役は表情を変えず答えた。
「準備は出来てますよ」
 本郷の瞳が光った。
「こちらもだ。人の世にい出し魔物共、一人たりとも逃がさん」
 そう言うと懐に手を当てた。冷静な役の瞳にも強い光が宿った。その輝きは何かしらの使命感に燃える正義感溢れる光であった。それは今までのクールで幾分冷たささえ漂う姿勢からは想像もつかないものであった。
 翌日二人は朝早く起き出し服を着て散策に出た。もう一度事件が起こった村を調査する為である。
 まだ朝日は昇っておらず景色は青白いままである。薄靄がかかり小鳥のさえずりすら聞こえて来ない。
「こうして見ると本当にごく普通の田舎ですね」
 村を見回しながら本郷が言った。
「本当にね。まるで妖精の伝説や童話の舞台みたいな雰囲気さえあるね」
 役の言葉はあながち誇張でもなかった。緑の草が露に濡れそこに小さい虫達が止まっている。それに混じって色とりどりの花が咲きすぐ側の森の木々には鳥達が眠っている。今ようやく目を覚まそうとしているところだ。
「フランスには幻想的な童話が多いからね。こういった情景がよく合う」
「ペロー夫人とかですよね、俺も子供の頃御袋に読んでもらいましたよ」
「題材はグリム童話と重なる場合もあるけどね。どちらかと言うと私はペロー夫人の方が好きだね」
「赤頭巾ちゃんはペロー童話では狼に食べられたままなんですよね」
「元々それぞれの地域にあった話が基になっているからね。書いた人によって話が違うのは当然だよ」
 話すうちに二つの家の間に入った。その向かい側にはまた二つの家があった。
「最初あれ読んでもらった時はショックでしたよ。助かるもんだって思ってましたからね」
「グリム童話では助けるんだがね。けどそれはそれでストーリーに味が・・・・・・むうっ!?」
 何やら気配を察した。役の目の色がさっと変わる。気配はすぐ側の曲がり角から来ている。
「本郷君」
 小声で本郷に話し掛ける。
「ええ、解ってますよ」
 本郷もだ。身構えたまま角を曲がる。
「そこかッ!!」
 二人は素早く角を曲がると構えを取った。素手であるが怯んではいなかった。
「むっ・・・・・・」
 そこには誰もいなかった。ただ獣の残り香が漂っていた。
「何処だ・・・・・・」
 役は辺りを見回した。この匂いの強さからまだすぐ側にいるのは間違い無かった。
「そこだな、喰らえ!」
 本郷がジャ
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