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魔狼の咆哮
第三章その四
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第三章その四

「だといいですけどね」
「まあトイレに行くことも無いでしょうが」
 六人は間取り図を囲み色々と話し合った。行動やアンリの予想される罠についてであった。話し込むうちに夜は過ぎていった。
 太陽が沈み月が登った。夜の女王が支配する世界となった。
「おあつらえ向きに満月とはね」
 ブルボン家の大きな紋章が飾られている宮殿の門をくぐる時に夜空を見上げて警部が呟いた。赤い、血の様に赤い嫌な色の満月だった。
「これがアンリの第一の策ですね。闘いの時を自分の有利な時にした」
「人狼は満月の時にその力を極限にまで引き出します。特にこういった赤い月の時に」
 巡査長に対しカレーが捕捉する様に言った。
「血を欲しているからですか、この赤は」
「そうかもしれません、特にあの男は」
 カレーは目の前に城の様に夜の闇の中に浮かび上がる宮殿を見つつ言った。
 昼ならば金の光を放ち壮厳な姿を見せていたであろう。だが夜の世界ではその金が不気味な光となり月の赤い光を反射させていた。
「・・・伏魔殿ですね、まるで」
 宮殿を見て役が言った。
「言いえて妙です。かってあの宮殿では陰謀が渦巻いていたのですから」
 中尉もまっすぐに宮殿を見やっている。
「そして今魔性の者があの宮殿に巣くっている。無数の魔物と罠と共に」
 役の言葉に一同唾を飲んだ。
 六人は足を進めた。馬に乗るルイ十四世が彼等を出迎えた。
「太陽王か」
「まさか自分の家が化け物に占領されるとは夢にも思わなかっただろうな」
 それに対し王は何も答えなかった。ただ戦士達を見下ろすだけである。
 門の前に来た。自然に扉が鈍い音と共に開いてきた。
「入れということか」
「流石に芸術家なだけはある。演出も凝ったもんだ」
 一同は武器を手に取った。ゆっくりと宮殿の中に入っていく。
「この門をくぐる者、一切の希望を捨てよ、とは書いてないところを見ると独創性はある様だな」
 役が独語した。
「ああ見えてアンリは独創性が豊かでしてね。他の者の真似は嫌うのです」
「それを別の方向に生かせないのかねえ」
「だから殺戮を行うのだろう」
 本郷に対し役が言った。
「頭のネジがどっかおかしいんでしょう。あの手の犯罪者にはよくあることですよ」
 巡査長が付け加えた。いささか直線的でありたきりな言葉だが真実ではあろう。
 六人は固まりつつ宮殿の廊下を歩いていった。まだ罠にも魔物にも遭遇していない。
「そういえば中庭にも石畳の道にもトラップはありませんでしたな」
 歩きつつ警部が言った。
「あの幾何学模様の庭なんかいかにもアンリの奴が何か仕掛けてそうですけどね」
 本郷が同意した。
「庭か?見たまえ」
 役が窓の向こうに見える夜の庭を指差した。
「あ・・・・・・
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