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魔狼の咆哮
第三章その三
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肩をすくめてみせた。
“おっと、私を忘れてもらっては困るな”
 ここでカレーが入ってきた。
“アンリ、私がここへ来た意味がわかるな”
“ふん、何を今更”
 二人は心の中で激しく火花を散らし始めた。顔はお互い別の方向を向き異なる相手と話しているにもかかわらず。
“誇り高きカレー家、偉大なる祖先フェンリルの名を汚す者、それ相応の償いをしてもらうぞ”
“戯言を。人狼の身体を持たぬ貴様が俺を倒そうというのか”
 その言葉に対しカレーは不敵に笑った。
“それでは屋根上での続きをするか”
 カレーの身体から発せられるドス黒い気が怒りの赤く燃え上がる気に変わった。
“外見よりずっと気の短い奴だな”
 それを見た本郷が独語した。
“面白い、今度こそ貴様を切り刻んでくれよう”
 一旦燃え上がった気を鎮めアンリは言った。
“貴様に出来るかな”
 凄むアンリに臆することなくカレーは返した。
“ふん、その言葉そのまま返してやる”
 アンリも負けてはいなかった。
“そうか。それでは宴の日時と場所を教えて欲しい”
“明後日の深夜零時、ベルサイユ宮殿だ。盛大な催しを用意してある。遅れることの無い様にな”
“ふん、今から楽しみにしておくぜ”
 本郷が言った。これが最後の挨拶となった。一行は絵画展を後にし宿舎へと向かった。ロココ調の外観と内装の豪奢なホテルだった。
「それにしてもえらく辛辣な御言葉でしたね」
 宿舎に入りその一室でカレーは役に対し先程のアンリに対する言葉について言った。
「別にそれ程きつい言葉を言ったつもりはありませんが」
 それに対する役の言葉は存外にしれっとしたものだった。
「おや、そうですか」
 カレーは僅かに苦笑して言った。
「まあいつもあんなもんですしね。いや、普段より柔らかいかな」
 横にいた本郷が悪戯っぽく言った。
「役さんはこう見えてえらく皮肉屋でしてね。いつも俺に対して色々と意見を述べてくれるんですよ」
「おい、それでは私がまるでいつも嫌味ばかり言っているように聞こえるじゃないか」
「あれ、そうじゃなかったんですか」
 少しムキになる役に対して本郷はおどけた口調で返した。
「それは君がいつもいい加減なことばかりしているからだ。それに私は普段は君に対してもこれといって何も言っていないぞ」
「それは嘘でしょう」
「おい、それは聞き捨てならないぞ」
 二人のやり取りを他の者達は面白そうに見ていた。やがて中尉が口を開いた。
「ところで二人共ベルサイユ宮殿のことはご存知ですか」
「ええ、ルイ十四世が建てた宮殿ですよね」
「何でも完成するまで二百年程かかったとか」
 二人はちょっとした喧嘩を止め中尉の整った顔へ向き直った。
「それでしたら話が早い。あの宮殿は完成まで相当の歳月をかけただ
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