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魔狼の咆哮
第三章その二
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第三章その二

「やがて彼の父が亡くなりました」
 唯一の肉親であり愛すべき対象がいなくなった。これでもう彼を制御するものは無くなった。彼のおぞましい宴が幕を開けたのだ。
「そういえばフランス中でここ二三年少女が姿を消す事件が頻発していましたな」
 警部が言った。ある日少女が忽然として姿を消すのである。それも美しい少女ばかり。
「そのうちのいくらかはアンリの仕業です。暗闇の中に引きずり込み犯し貪り喰っていたのです」
「フランス中でですか」
 巡査長が言った。
「はい。主に彼の邸宅があるベルサイユで悪行を繰り返していた様ですが」
「成程、だからあの時ベルサイユと」
 役が言葉を入れた。
「はい。彼にも表の顔があります。芸術家として」
「芸術家!?まさか」
 中尉の脳裏に閃きがあった。
「最近売れ出しているシャルル=ド=シリアーノですか?」
「はい。やはりご存知でしたか」
 この画家の名はよく知られていた。独特な色彩とタッチで知られ高い評価を得ている。
「有名ですからね。何でも前衛派のホープだとか」
 中尉は言葉を続けた。
「絵に狼がよく使われていますしね。まさかとは思いましたが」
 彼の絵は狼が何かを襲い喰らう絵が多いことで知られていた。
「確かベルサイユで彼の絵画展が開かれていた筈です。行ってみますか」
「カレーさん、それはいくら何でも」
 警部が制止した。
「奴の牙城へ単身載り込む様なものです。危険過ぎますよ」
「いえ、大丈夫ですよ」
 本郷が言った。
「奴の性格からして白昼堂々攻撃を仕掛けてくるとは思えません。おそらくやり過ごすでしょう」
「しかしそれでも」
「何、いざとなったら一戦交えるだけです。奴の方から来いと言って来たのですしね」
 そう言って不敵に笑った。
「それでその準備はしているのかね?」
 役が口を挟んだ。
「勿論ですよ、腕が鳴ります」
「ならいい」
「ならいいって・・・」
「いいんじゃないですか、警部。そっちの方が近道ですし」
 巡査長も二人に同調した。
「おい、巡査長まで」
「私も賛成です」
 中尉も同意した。
「中尉・・・」
「これで決まりですね。行きましょう」
 カレーの言葉で全てが決まった。六人は列車を降りると小さなベルサイユ駅を出て車中の人となった。
「そういえば署長は来られないんですね」
「署を離れる訳にはいかないので。仕方無いことです」
 フランス製の優雅な外観の白い車の中で本郷の言葉に警部が答えた。
「しかし今回の事件の解決を一番望んでおられるのは署長です。我々が出発する時にも是非とも頼む、との言葉を受けました」
「そしてベルサイユまでの旅費や宿、現地警察への連絡等全ての手配をして下さったのです」
「そうだったんですか、何
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