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魔狼の咆哮
第三章その二
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から何まで」
 巡査長の言葉に本郷は申し訳なさそうに頭を垂れた。
「絶対にアンリの奴を倒さなくてはなりませんね。署長の御厚意に報いる為にも」
「そしてあの男に殺された多くの罪の無い少女達の無念を晴らす為にも」
 役の眼が光った。車はシャルル=ド=シリアーノ、アンリの絵画展が開かれているビルに辿り着いた。
 何の変哲も無いありふれた外観のビルだった。エレベーターを使い絵画展が開かれているフロアまで向かった。受付を済ませ六人は中へ入った。
 中には多くの紳士淑女達がいた。どの者も上流階級の者なのであろう。見事な生地で丁寧に整えられたスーツに身を包みコロンの香りを漂わせている。整った顔を更に化粧で飾り美を際立たせている。
「何か場違いな感じですね」
 カレー以外はどの者もこういった場所には不慣れであった。とりわけ本郷と巡査長は見るからに場違いなオーラをかもし出している。
「まあこういった場所も慣れだね。そのうち慣れるよ」
 役が言った。
「慣れるだけ来られればの話ですけどね」
 本郷が目を少し細めて言った。
 絵画であるが前衛派といっても少し異なっている。どこかしら超現実主義の影響が見られる。
「この狼が空で太陽を食べる絵なんかいいね。何だか気に入ったよ」
「私はこの地球が蟻に覆われている絵が」
 本郷に対し中尉が賛同した。青と緑の地球が無数の蟻によって醜く食い散らかされている絵であった。
「ダリの影響かな」
 その絵を見て役はぽつりと一言漏らした。
「それでもこんな不気味な絵は描きませんね。ゴヤの絵みたいな雰囲気も感じられます」
 カレーが付け加えた。確かにこれ等の絵からは非現実性と共に言葉では言い表しがたい不気味さも醸し出されていた。
「作品には描いた者の心理が現われると言われていますがそうだとするとこの絵からアンリの精神がある程度分析出来ますね」
「そうですね、おそらく」
 警部の言葉に頷きつつカレーが腕を組みつつ話し出した。
「強い感受性と斬新な作風に見られる新進の気鋭、整ったものを破壊し貪り喰いたいという破壊願望、無意識下から湧き出ている残忍性、こういったところでしょうか」
「よく短時間でそれだけ分析出来ますね」
「心理学もかじっていたもので」
 警部の言葉に対し微笑みで返した。今度は目も笑っていた。

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