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魔狼の咆哮
第三章その一
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ンリは人狼の姿で生まれ出た。それを見た母親は発狂した。父親は己が血を呪った。しかしだからといってどうにもなるものではなかった。
 アンリは発狂した母親に替わり父に育てられた。母は精神病院に入れられ程なくしてこの世を去った。人の姿を取る事も出来たので普段は人として生きていた。
 やがて父から自身の血脈のことを知らされる。北欧の狼神の血を引く人狼の末裔なのだと。
 父は言った。血脈なぞ何の意味も無いと。そして人として生きよと。
 だが彼は人狼として生まれ己が母を狂死させた自身の血を呪った。それを忘れる為に父と同じ芸術の道へ進んだ。とりわけ絵画でその才を発揮し将来を渇望されるまでになった。だがここで彼は別のものをも開花させてしまった。
 殺意への欲望、それはふとしたはずみで生じる時がある。ある絵に映し出された殺戮と陵辱の姿、異形の者達、それを見たアンリの心に何かが棲み付いた。
 同時に必死に押さえ込んでいた筈の自身の血脈への憎悪が甦ってきた。己を化け物として世に送り出した忌まわしい血脈への。それは抑えられるものではなかった。

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