暁 〜小説投稿サイト〜
魔狼の咆哮
第三章その一
[2/3]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
はなく邪神の血を引く存在なのであるから。
 カレー家の祖先もそうした魔界の生粋の人狼であった。一族の中でも特に人界にいることの多かった彼は次第に人の世界に対して興味を持つようになった。そして当時フランスでその権限を強めつつあったフィリップ二世に素性を隠して近付き配下となったのだ。その後は王の陰の切り札として活躍しフランスの王権の拡大と安定に貢献した。その功により爵位と領土を与えられたのは陰の世界では知られたことである。
 彼は王に人の伴侶を与えられた。これは彼の真の姿を知らぬ故仕方の無いことだったのだが彼はそれを拒まなかった。否、寧ろ大いに喜んだ。
 彼は妻にもその正体を明かさなかった。だが生まれた我が子にはその歳が十に達した時に教えた。その時まではあえてその正体を魔力で封じていたのだ。これは我が子に対してもそうであった。後に妻にもそれを明かした。本来ならば卒倒したであろう。しかし奇なるかな、彼女もまた古の魔女の血を引く家であったのだ。彼女は喜んでそれを受け入れた。
 これ以降カレー家の者達は人界において魔性を持つ血筋と結ばれていった。人と交わるにつれてその魔力は薄れ人狼へ戻ることも叶わなくなったがそれでも良かった。彼等は表向きは人として生きることを望んだのであるから。
 だがやがて祖先達が持っていた人狼へ戻る力を持つ者が生まれた。その時にはフィリップ二世のカペー朝ではなくブルボン朝の世であった。ルイ十五世の時代であった。
「じゃああの伝説の野獣は」
 本郷の問いにカレーは黙って頷いた。
 彼は精神に異常をきたしていた。それが為に屋敷を出ては辺りの村で少女を襲い貪り喰っていたのだ。伝説の野獣の正体は彼だったのだ。
 当時のカレー家の当主は彼の兄だった。弟の行動を止めたかったが血を分けた肉親であるが故にどうすることも出来なかった。逆に捜査に来た官憲の妨害をする程であった。これが弟の殺戮を更に続けさせる結果になってしまったとしても。
 やがて弟は官憲に殺されてしまう。兄は深く嘆き哀しんだがどうすることも出来なかった。ただ弟の墓を掘り起こし密かにカレー家の墓地へ移すだけであった。
「それでは先に殺されたのは只の狼だったのですね」
「はい。後で殺されジェヴォダンに埋められた方が真の野獣だったのです」
 カレーは表情を全く変えることなく言った。
 それ以後人狼に姿を変えられる者は出なかった。突然変異なのでありそうそう現われるとは考えられなかった。しかし再び現われたのだ。
「それがアンリなのです」
 カレーは話を続けた。
 アンリの父はルーンの魔術を知る以外はこれといって変わった点の無いごく普通の一族の者だった。あくまでカレー家の者としてではあるが。だが彼の息子は違ったのである。
 これは何者か、神か悪魔かの悪戯であったのだろうか。ア
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ