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魔狼の咆哮
第二章その十
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「芸術か、よくそんなごたいそうな事が言えるな」
 中尉の翠の瞳に怒りの青い炎が宿った。
「貴様が殺した少女達の未来を、人生を、幸福を奪っておきながら」
「それを他の者から奪うのが人間共だ。貴様も今までの人間の歴史がどの様なものか知っているだろう」
「・・・・・・・・・」
 アンリが何を言いたいのか中尉は痛い程わかっていた。
「人間共の歴史は汚辱の歴史よ。その汚辱にまみれた連中にせめて素晴らしい最期を与えてやっているのだ」
 パチパチパチパチパチパチ
 何処からか拍手が聞こえてきた。その数は二つであった。
 拍手の主達はドアの後ろにいた。月の光に照らされながらゆっくりと部屋に入って来る。
「貴方達は・・・・・・」
 本郷と役だった。中尉の左前に立ちアンリに正対する。
「素晴らしい歴史の講義だ。日本の大学ではこれ程高尚な講義は聞けない」
「全く。まあ俺は歴史の授業はいつも寝てるか早弁してましたけどね」
 役の言葉に本郷が相槌を打った。
「だから君は何かと抜けが・・・まあいい。アンリといったな」
「ふん、誰かと思えば日本から来た探偵か」
 二人に対しアンリは侮蔑と嘲笑を込めた言葉を吐きかけた。
「歴史に興味がある様だが。どうせ何も知らないのであろう」
「言ってくれるな、化け物が」 
 本郷がアンリを睨みつけた。
「何!?今何と言った!?」
 アンリの声に怒りの色が混ざる。
「化け物と言ったんだ。この醜い化け物が」
「貴様、殺されたいか、この俺を醜いなどと」
 声が震えている。自身より下等と思っている存在に醜いと言われたのが相当気に触ったらしい。
「醜いと言わずして何だ!?貴様は自分の下らない自己満足と復讐の為に自分より弱い者を嬲り殺しにしてそれを勝手に理論武装して正当化しているだけだ。確かに人間は罪を犯していく生物だ。だがそれはどの生物とて同じこと」
 本郷が言葉を続ける。
「そして人間はその罪を自覚しそれを克服し清めようと努力する。貴様はそれには目をくれようとせず底の浅い理論で断定しているだけだ。その上で弱き者を喰らい犯しているに過ぎない。俺は貴様を醜いと言ったが貴様は姿が醜いのではない。その心が醜い化け物なのだ」
 いつもの直情的で口調の軽い姿からは想像出来なかった。辛辣かつ鋭い口調だった。
「貴様の親がこの家の者とどういった関係があったのか詳しいことは俺は知らん。だがこれだけは言える。貴様はそれを口実に人を殺め続ける下賎な化け物でしかない」
「俺を下賎と言うか、この下等な人間風情が」
「その人間風情にすら劣る奴が何を言う」
「貴様・・・・・・!」
 アンリにとって最早忍耐の限界であった。元々プライドが高く自身の血脈に誇りを持つ彼にとって化け物呼ばわりされることは全てを否定されることと同じ
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