暁 〜小説投稿サイト〜
私立アインクラッド学園
第二部 文化祭
第44話 ユイの正体
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は、言葉もなく聞き入ることしかできない。

「わたしはただ、この屋敷の中に閉じ籠っていました」

 その時ユイが、ふと顔を上げた。

「ある日、どこからかある二人の声が聞こえてきました。その声は、それまで聞いたことのない声でした。とても楽しそうで、幸せそうで……。わたしはその二人の声をしばらく聞いていました。会話や行動に触れるたび、わたしの中に不思議な欲求が生まれました。あの二人のそばに行きたい……直接、わたしと話をしてほしい……。すこしでも近くにいたくて、わたしは毎日、二人の通う学園に行こうと、森の中を彷徨いました。その頃にはもうわたしはかなり壊れてしまっていたのだと思います……」
「それが、この森なの……?」

 ユイはゆっくりと頷いた。

「はい。桐ヶ谷さん、結城さん……わたし、ずっと、お二人に……会いたかった……。森の中で、お二人の姿を見た時……すごく、嬉しかった……。おかしいですよね、そんなこと、思えるはずないのに……。わたし、ただの、コピーなのに……」

 涙をいっぱいに溢れさせ、ユイは口をつぐんだ。明日奈は言葉にできない感情に打たれ、両手を胸の前でぎゅっと握った。

「ユイちゃん……あなたは、本物の知性を持っているんだね……」

 囁くように言うと、ユイはわずかに首を傾げて答えた。

「わたしには……解りません……。わたしが、どうなってしまったのか……」

 その時、今まで沈黙していた和人が一歩進み出た。

「ユイはもう、ただのコピーじゃない。だから、自分の望みを言葉でにきるはずだよ」

 柔らかい口調で話し掛ける。

「ユイの望みはなんだい?」
「わたし……わたしは……」

 ユイは、細い腕をいっぱいに二人に向けて伸ばした。

「ずっと、一緒にいたいです……パパ……ママ……!」

 明日奈は溢れる涙を拭いもせず、ユイに駆け寄るとその小さな体をぎゅっと抱きしめた。

「ずっと、一緒だよ、ユイちゃん」

 少し遅れて、和人の腕もユイと明日奈を包み込む。

「ああ……。ユイは俺たちの子供だ。家に帰ろう。みんなで暮らそう……いつまでも……」

 だが──ユイは、明日奈の胸の中で、そっと首を振った。

「え……」
「もう……遅いんです……」

 和人が、途惑ったような声で訊ねる。

「なんでだよ……遅いって……」
「さっき言ったように、わたしは本来ここにいるべき存在ではないんです。すぐにわたしは消去されてしまうでしょう。だから……もう……。もう……あまり時間がありません……」
「そんな……そんなの……」
「なんとかならないのかよ! この場所から離れれば……」

 二人の言葉にも、ユイは黙って微笑するだけだった。再びユイの白い頬を涙が伝った。


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