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魔狼の咆哮
第一章その一
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第一章その一

                 第一幕 甦る伝説
 フランスのある片田舎。一台の車が舗装されていない路をがたがたと揺られながらしんどそうに進んいた。
 車はかなりのおんぼろ車の様だ。黄色の車体のあちこちには傷がありへこんだ部分さえある。今にもエンストしそうなエンジンであり座席はスプリングさえ出ている。
 「もう少しまともな車はなかったのかね」
 右座席に座る茶色の髪を真ん中で分けたアジア系の青年が不満の色を顔一面に出して言った。紺色のスーツにダークブラウン系統のネクタイ、白がかったクリーム色のトレンチコートを着ている。齢は二十五程か。細面に一重の黒い瞳、眉は横に伸び何処か実際の年齢よりも老成した感じである。
「仕方無いでしょう、これしか無かったんだから」
 左座席で車のハンドルを握る男がばつが悪そうに言った。黒い髪を短く切ったこちらもアジア系の若者である。隣の男より若い様だ。二十三、四といったところか。奥二重の鳶色の瞳に薄めの眉を持つ爽やかな若者である。隣の青年がスーツにトレンチコートと堅苦しい服装に身を包んでいるのに対しこちらは黒いセーターに青ジーンズ、そして皮のジャケットとラフな出で立ちである。
「そういうことを言っているんじゃないよ、君はいつも前もって計画を立てていないからこうなるんだ。大体パリに着くまでにレンタカーの予約もしていなかったとはどういうことだい?」
 右の男が揺られて座席の後頭部を打ちながら言った。
「そう言う役さんも悪い車で良いって言ったじゃないですか。これから行く所は田舎だからへたに良い車だとかえって運転しにくいって」
 若者も言い返した。
「確かにそうは言ったが何もここまで変な車じゃなくても良かっただろう。こんな車動いている方が不思
議だ」
「だからあ、これしか無かったんですよ」
「そもそもそれが問題だろう。前もって計画を立てておかないから・・・」
 堂々巡りの責任の擦り付け合いをしながら二人は小石と枝が散乱している小路を進んでいった。小石や枝を踏む度に車は大きく揺れエンジンが止まりそうになる。そうこう運転に悪戦苦闘しつつ言い争ううちに車はある小さな村に到着した。
「日本の探偵の方ですね。ようこそ、プレコールへ」
 フランス語である。パリで話されているフランス語とは発音が多少異なる。いくらかこの地のなまりがある様だ。一人の中肉中背のグレーのスーツとスーツと同じ色のコートに身を包んだ中年のヨーロッパ系の男性が出迎えに来た。くすみ少し白いものが混じった金髪に薄いブルーの瞳、やや角張った顔付きをしている。
「いえ、こちらこそ宜しくお願いします」
 車から降りた二人はこの男性と握手した。
「ジェヴォダン警察のデッセイ警部です。宜しく」
「本郷忠(ほんごう ただし)です」
 
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