暁 〜小説投稿サイト〜
【改訂版】林檎の恋愛物語。〜毒林檎の場合。
V
[1/2]

[8]前話 [1] 最後
『好き』
――そう言おうと思ったの。あなたを一目見て、その心の真っ直ぐな所を知って、好きになったのだと。外見に惑わされず、優しい偽りに騙されなかったあなたの事を。もっともっと、知りたいと思ったの。

 毒林檎はそれでも起こった現実に、ただただ茫然と、するばかりだったのだ。人間であったのなら、その顔は真っ赤であったのだろう。青年は林檎に口づけたのだった。真っ赤になった、毒林檎の呪いは解けた――真実の愛の口づけによって。

「腐った紅色をしていようと、澄んだ心を持った毒林檎、か。気に入ったよ」

――私のことをあなたは見てくれた。甘い香りも偽りの色もない、醜い私でも。それでも見てくれた。
 真の姿をした私は、誰の手にも取られない。醜い色の私は誰からも愛されない。確かにそう思っていた。それなのに、あなたは私にキスをくれた。毒林檎という、哀れな生を受けたこの体に。

「たとえこの身が醜かろうと、腐った紅色をしていようと、心は赤く燃えている。初めて誰かを好きになった、私の心」――真っ赤な毒林檎の告白。
「私は、あなたの事が好きみたい。一目見た時から、あなたに食べられたいと思ったの。なんてね」
 その姿は既に、毒林檎と言えるような容姿ではなかった。その、気高く清い心を反映したような、美しい女性の姿になっていた。


――


 そうして後日がたちました。水色に晴れ渡る空の下。大きな湖の畔に、青年と美しい女性が寄り添い、座っておりました。青年は彼女に、世界を旅した時の話をしてあげます。決して明るい話ばかりではありませんでしたが、その内容はどれも真実でした。今まで正しい心で世界を見てきたのでしょう。
「それから僕には両親がいてね。いつも、『正しい心を持ちなさい』と育てられたんだ。そのことにはとっても感謝してるんだ」
 青年は彼女に自分の生い立ちについて語ります。
「……僕は恵まれていると思っただろ?」
 青年の表情は一変して曇ります。
「それなのに僕は、家を飛び出したんだ。幼いときはいたずらをしたり、成長してからも間違った事をすれば酷く叱られた。そのたびに思ったんだ。僕はしたいことをしただけなのに、ってさ。だから、逃げ出したんだ」
 正しい事ばかりを求めていると、この世は生きにくい――そう青年は言いたかったのでしょうか。しかしそのことについてはこれ以上語らず、話のつづきを彼女に聞かせました。
 彼女は彼の話のすべてを、とても幸せそうに聞きました。
「でも一番不思議なのは、君と出会ったこと。それからこうして君と一緒にいられることなんだ」
 少し照れくさそうに青年は言いました。
「僕はその……このとおり地味だしさ。誰かに好きになって貰えたことなんて、今までなかったんだ。だから――」
 そうしてふたりは見つめ合い、感謝を込
[8]前話 [1] 最後


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ