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から。そう、思えば思うほど切ない。
『私は本能から、あなたに食べて欲しかった。他の誰でもなくただあなたの手で、その口で。それが幸せなんだとずっと思ってきた』――でもそれは間違いだった。愛する者を殺して、幸せになりたいとは思わない。だから早く逃げて……それが一番正しいのだから。
『だけど、そこに横たわる仲間たちを見なさい。彼らは既に息がない』
男を森から逃がしたいと、はやる気持ちを抑え――毒林檎は静かに真実を語る。そして己の願いを告げる。
『どうか、あなただけでも生きていて。これは私のわがままです。早くここから――』
しかし、その言葉は青年の耳には届いていないのだろうか。その瞳からは真の涙が――青年の頬を伝う。毒林檎は突然のことに戸惑いを隠せない。
「そうか。とても幸せそうな表情をしていたから気が付かなかった」――それが初めて聞いた、彼の言葉。純な瞳から真の涙を流した青年は、傍らの仲間に手を合わせた。そうしてそのあと林檎の方を見る。
「僕だけは貴女のおかげで助かったようだ。真実を話してくれてありがとう。その涙にも感謝する」
戸惑っていたが、林檎はその言葉を受け取る。
『あなたは何でもお見通しなのね。ただ、この涙には感謝しなくても結構よ。自分の愚かだったことへの後悔の涙だから――おかげであなたを殺さなくて済んだのだけれど』
毒林檎の自らを嘲笑うような言葉を青年は、涙を拭って笑った。
「それは全くおかしな話だ。毒林檎のはずが、殺さなくて済んでよかったとは」
青年が笑ったことになぜだか林檎は苛立った。
『ええ、そうね。自分でもそう思うわ――死にたくなければ出ておいき! 今すぐ! ここから――』
しかし、林檎の警告は遮られる。青年は木の枝からその果実をもぎ取った。
『な、何を』
青年はてのひらの林檎をその口へ近づける。
『おやめなさい、そんな事をすればあなたは死んでしまう! 私はあなたのことが――』
しかし、青年によって時は止まった。
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