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までは。
あなたを一目見るまでは、それでもいいと思っていた。なのに私は本能から、あなたに食べて欲しがってる。他の誰でもなくただあなたの手で、その口で。そうして精霊として羽ばたいてゆきたい――他の果実がそうしたように。
たとえこの身が醜かろうと、腐った紅色をしていようと、心が赤く燃えている。それは初めてで、偽りのない澄んだ心。こんなのは初めてで、私はおどろき戸惑っている。
どこからだか声がした。どこからか光が差し込んでいた。これは神のお慈悲なのだろうか。ここは日の当たるはずのない場所。その眩しい声は私だけに囁いた。
「それは恋というものだよ」
あまりの眩さに眩暈がしそう。続いて囁き声がした。
「今の機会を逃したら、もう二度と彼は現れないよ。彼は他の人のものになってしまう」
幻覚を見せられてるかのようなその光景は、私の中で黒く渦巻く。それは胸を締め付け、心が苦しくて悲鳴を上げる――彼が他の人のものに? そう思ったら、憎しみの感情しか生まれてこなかった。
――
気づけば男は目の前に。真っ直ぐな目で、本当の彼女の姿を見つめる。男はその実に手を差し伸べようとする。彼女を見つめる瞳は、物珍しげな、子供ように透き通った目。
それに対する彼女は――
つづく。
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