暁 〜小説投稿サイト〜
ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──
ALO
〜妖精郷と魔法の歌劇〜
遺された悪意
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───使えるかもしれない。
そう胸中で呟いたアスナは、レイピアの切っ先を少しだけ下げる。無論、警戒を解いた訳ではない。
「須郷さん、今すぐ私とマイちゃん、それにここに閉じ込めている人達全員をログアウトしなさい。GM権限を持つあなたなら、それは簡単なことでしょう」
「………それはできないなぁ、ティターニア。いくら君の頼みでも、ね」
「交渉の余地はないはずよ。これはなんだか私には解らない。解りたくもない。だけど、これがあなたの研究に大きな影響を及ぼしてるのは充分に判るわ」
ぐっ、と。初めて須郷伸之の丹精に構築された顔が、醜悪に歪んだ。
当たりだ。
アスナは密かにぐっとガッツポーズをする。
人質を得た。
これは、この難解な状況を確実に自分達の側へと引き寄せたはずだ。
しかし、人質はそれを有効に活用し、初めてその真価が問われる。原則として、人質は二人以上というのが通説と言える。片方を特攻で奪還されても、もう一人を保険として確保しておけるからだ。
しかし、このどっちに転ぶか分からない綱渡りのような状況で、さすがにそこまでの事を期待するのは無理難題というものだろう。
「………おやおや、ティターニア。君は一つだけ勘違いをしていないかい?ここはゲームの中なんだよ。都合の悪いことは
巻き戻し
(
ロールバック
)
すればいい」
「嘘が下手ね、須郷さん。それなら部下の一人でも寄越して、こんな交渉めいた事をせずともあの檻に連れ戻せばいいでしょう」
アスナの再度のその反論に、須郷伸之はとうとう完全に黙り込んだ。
彼自身、その沈黙が肯定としか取れない事を痛いほど分かっているはずだ。
再び降りた、沈黙の時。
限界まで張り詰め、触れた指が切れそうなその沈黙を強引にぶち破ったのは、さらに悪意に塗れた一つの《声》だった。
『ク、フフ。散々ミタイダネ、須郷』
「──────────ッッッッッ!!!!」
反射的にマイを強引に引き寄せ、かつて鋼鉄の魔城の頃に付けられた二つ名のごとき勢いで、白銀の軌跡を空中に残す。
だが、命を任してきた相棒の刀身は、何の手応えも返してはくれなかった。
ただただ、空を空しく掻く音しか聞こえなかった。その音さえも、すぐに反響し、減衰して消え去る。
それでも、アスナは感じていた。
空間の質が、はっきりと変わった事を。
背筋が粟立ち、首筋をチリチリとした静電気に似たナニカが這い回っている事を。
「だ、だれ!?」
思わず裏返った声で叫ぶが、その《声》は特定の発生源から発せられているとは思えない。例えるなら、部屋全体にスピーカーが備え付けられており、それら全てから音が発せられているようなものだ。
「ち
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