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剣の丘に花は咲く 
第十章 イーヴァルディの勇者
第二話 囚われの……
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視線を窓の外に向けた。窓の向こう、そこには一匹の風竜が怒りに燃える目でビダーシャルを睨みつけていた。

「……韻竜」 

 自分を睨み付ける風竜の目と合った瞬間、ビダーシャルはその風竜がただの風竜ではないことに気付く。
 『韻竜』―――それは、今は絶滅したと言われる古代種であった。知能が高く、先住の魔法―――精霊の力を操り、人の言葉さえ操る幻獣。
 ビダーシャルの目が、チラリと腕の中のタバサに向けられる。

 メイジの使い魔は、使い手の実力を現すと聞くが……韻竜を使い魔にするとは……自分が『契約』した場所でなければ、危なかったかもしれなかったな。

 心の中で感心の声を上げながら、ビダーシャルは自分を睨み付ける風竜―――シルフィードに話しかけた。

「韻竜よ。私にお前と争う意思はない。『大いなる意思』もまた、お前と私が戦うことは望んでいない」

 ビダーシャルが口にした『大いなる意思』。
 それはエルフや韻竜等、ハルケギニアの先住民が信仰する概念であり、『精霊の力』の源であった。つまるところ、人間にとっての神である。
 神が戦うことを望んでいないと言われても、シルフィードは動揺するどころか、唸り声を上げ始めた。
 ビダーシャルの眉がぴくりと動く。
 自分を威嚇するこの幼い韻竜は、自分が己より強いことに気付いている筈だ。なのに何故、この韻竜は自分に牙を剥くのか。

「蛮人の使い魔になれば、韻竜と言えどここまで落ちるか」

 はぁ、と溜め息を吐いてビダーシャルがかぶりを振ると、シルフィードが窓を破壊し襲いかかってきた。
 だが、

「……哀れなものだ」
 
 シルフィードの爪はビダーシャルの突き出された手に押し止めていた。
 痩せたエルフが巨大な竜の爪を止める姿は、異常の一言に尽きた。ビダーシャルに爪を掴まれたシルフィードは、必死に身を捩り何とか逃げ出そうとする。しかし、シルフィードの爪を掴むビダーシャルの手は小揺るぎもしない。
 そこには、傍から見ても分かるほどの力の差があった。
 タバサを床に下ろすと、暴れるシルフィードの頭にビダーシャルは手をかざす。すると、ジタバタと暴れていたシルフィードの身体がピクっと一瞬震えたかと思うと、ゆっくりと瞼を閉じ寝息を立て始めた。
 ビダーシャルが爪を掴む手を離すと、シルフィードの身体がドスン! と音を立て床に転がった。すぅすぅと床に転がり寝息を立てるシルフィードをチラリと見た後、ビダーシャルは床に下ろしたタバサを抱えなおすと、扉に向かって歩き出した。










 意識が食い尽くされる刹那。


 タバサの脳裏に過ぎったのは、囚われの母の姿ではなかった。


 気を失うその最後。

 
 タバサの脳裏に過ぎったのは
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