第十章 イーヴァルディの勇者
第二話 囚われの……
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う杖を、タバサはエルフ目掛け振り下ろした。
一瞬で氷の刃が舞い狂う嵐がエルフの身体に食らいつく。
だが、タバサの顔に勝利の喜びは見えない。それどころか、顔には驚愕の色が浮かんでいた。
タバサは見たのだ。
エルフが氷嵐に飲まれる寸前、自分を見つめる瞳の中には、恐怖も怒りも敵意さえなく、ただタバサに対する『遠慮』しかなかったのを。
愕然とするタバサの脳裏に、最大級の警鐘が響く。
エルフを飲み込んだ氷嵐が、何の前振りもなく逆回転したと思うと、タバサに向かって飛んできたのだ。
「イル・フル・デラ―――ッ?!」
まるで壁に投げつけたボールのように跳ね返ってきた氷嵐に対し、反射的に『フライ』の呪文を唱え、空へ逃げようとするタバサ。歴戦の戦士であるタバサは一瞬で魔法を完成させると、地を蹴り迫る氷嵐から逃げようとする。
しかし、それは叶うことはなかった。
驚きに見開かれたタバサの目に映ったのは、まるで粘土のように形を変えた床が、自分の足を巻き付いている光景であった。
「先住魔ほ―――!?」
微かに開かれた口元から、こぼれ落ちるように漏れた言葉は形になることはなかった。
形となる直前、タバサの身体を氷嵐が飲み込み、己を生み出した主の意識を貪り食らったからだ。
元の形がわからなくなる程に荒れ果てた部屋の端に、タバサが壊れた人形のように転がっている。傷一つどころか、身に纏う服に皺一つ作ることはなかったエルフが、部屋の隅に転がるタバサに向かって歩き出す。力なく倒れ伏すタバサの身体は、氷嵐の氷の刃によって傷付けられた全身から流れる血によって真っ赤に染まり。魔法が消えたことにより、氷が溶け、タバサから流れる血と混じり合いタバサと床に敷かれた絨毯は、血と水にぐしゃぐしゃに汚れていた。
一見死んでいるかのように見えるタバサであるが、その胸は微かに動いており、まだ生きていることを示している。しかし、その動きは余りにも弱々しく、傍から見ても、その命がもう長くないことは明らかであった。
そんな死に掛けのタバサの首筋に手を当て脈を確認したエルフ―――ビダーシャルは、そのまま呪文を唱え始める。
「この者の身体を流れる水よ……」
ビダーシャルが行使する魔法、ハルケギニアの人間が『先住』と呼ぶ『精霊の力』は、系統魔法の『治癒』を遥かに超える速度で、タバサの傷を癒していく。直ぐにタバサの身体の傷が完全に塞がる。傷は癒えるも、未だ血と水で濡れそぼったタバサをビダーシャルは抱え上げた。
腕の中のタバサに目を落としていたビダーシャルだったが、視線を感じ、顔を上げると
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